米国のティラーソン国務長官がトランプ大統領を「ばか」呼ばわりしたと報じられたことで、北朝鮮への対応など外交政策をめぐる両者の確執が表面化している。ティラーソン氏は会見でこの報道や辞任説を否定し、トランプ大統領も「フェイクニュース(偽ニュース)」と一蹴したが、その後も大統領は「嵐の前の静けさ」という表現で、北朝鮮への軍事攻勢を示唆するなど、北朝鮮政策をめぐる両者の対立は隠しようがなく、いまだに国務長官辞任説はくすぶり続けている。
かりに辞任すれば、米政権内の北朝鮮政策の足並みの乱れが露呈することになり、米主導の国連安保理の厳しい対北制裁にもかかわらず、結果的に核・ロケット開発に固執する金正恩朝鮮労働党委員長に利することになるのは間違いない。ひいては、10日公示、22日投開票の日本の衆議院総選挙にも影響し、対北強硬論者である安倍晋三首相の進退にも発展しかねない。
「時間の無駄」発言
CNNがティラーソン氏の問題発言がなされたとされる会議に出席した人物の話として報じたところでは、会議は今年夏にペンタゴン(国防総省)で開かれ、同氏は確かに大統領を「ばか」呼ばわりしたが、この会議に大統領は出席していなかったという。ティラーソン氏は大統領不在の場で、欠席裁判的に「moron」と大統領を批判したという。「moron」を手元にある英英辞典「Longman Dictionary of American English」で引いてみると、「a very foolish person」(非常にばかな人)と意味づけている。また、「ジーニアス英和辞典」(大修館書店)では「1 軽度知的障害者(知能が8-12歳程度の成人)。2 ばか、まぬけ」とある。
いずれにしても、長官は大統領のことを“子ども扱い”したことは間違いない。CNNはどのような問題でティラーソン氏が大統領を「ばか」呼ばわりしたかについては触れていないが、思い当たるのは北朝鮮への対応だろう。
ティラーソン氏は9月下旬、トランプ大統領の訪中に先駆けて北京を訪問し、首脳会談の議題などについて関係当局と協議し、習近平国家主席とも会談し、北朝鮮とは対話による平和的な手段で問題解決に取り組むことで合意した。ところがその直後、トランプ大統領は「私は素晴らしい国務長官であるレックス・ティラーソンに『小さいロケットマンと交渉しようとすることは時間の無駄だ』と言ってやった」とツィッターに書いたのだ。
さらに続けて、「過去25年間ロケットマンに優しくして失敗してきたのに、どうして今うまくいくものか。エネルギーを節約しろ、レックス。我々はやらなければならないことをやろうぜ」と書いて、大統領はワシントン-北京間を往復するなど、平和的な解決に向けて精一杯取り組んでいるティラーソン氏の外交努力を「時間の無駄」と決めつけたのだ。これでは、まるで長官の「ばか」呼ばわりに対抗するかのようだ。