これを受けて、まだ北京に滞在していたティラーソン氏は9月30日、同行記者団と懇談を行ったが、トランプ大統領の「時間の無駄」発言に質問は集中。記者は「トランプは北朝鮮との交渉は時間の無駄と言っているが?」と質問した。ティラーソン氏は「平壌と交信するチャンネルは保持している。幅広い制裁が効き始めている。我々はその兆候を確認している」と指摘し、トランプ大統領の見解との相違を強調している。
さらに、長官は「平壌と交信するチャンネルは保持している。2つ、いや、3つ存在する。だから、会話は可能だし、会話している」としたうえで、「中国経由か?」との記者の質問に「いや、直接だ」と答えて、国務省など米政府が直接、北朝鮮当局と3つのルートで対話を続けていることを明らかにしたのだ。
当然、「3つの直接の対話ルート」について、ティラーソン氏はトランプ大統領に報告しているはずだが、トランプ大統領が外交的努力に否定的な発言を繰り返すのは、ティラーソン氏を信用していないことの裏返しともとれる。
その証拠に、トランプ大統領は5日夜、ホワイトハウスで開いた軍高官らとの夕食会で、報道陣の冒頭撮影に応じながら、軍高官らを見渡し「これが何を意味するかわかるかな。嵐の前の静けさだよ」との意味深な発言を行った。記者たちは大統領に「嵐とはなんのことですか」と質問したが、大統領は笑みを浮かべながら「そのうちわかるよ」と述べるにとどまったという。
このため、メディアの間ではトランプ政権が近く安全保障分野での懸案に関し、北朝鮮への軍事攻撃などの新たな行動に踏み切る前触れではないかとの臆測が広がっている。
北朝鮮、10日に挑発行為か
北朝鮮情勢をめぐっては、米中央情報局(CIA)で朝鮮半島情勢を統括する「コリア・ミッションセンター」のヨンスク・リ副局長代理が4日、ワシントン市内の大学で講演し、北朝鮮が朝鮮労働党創建記念日である今月10日(米国時間9日)に挑発行為を仕掛けてくる可能性があるとの見方を明らかにしている。米国時間の9日は米国の祝日である「コロンブス・デー」にも当たっている。
北朝鮮はこれまでも米国の祝祭日に合わせてミサイル発射や核実験などを実施しており、リ氏は「(北朝鮮問題の関係者は)電話のそばにいたほうがいい」と述べて、北朝鮮の挑発行為を警戒するよう呼びかけている。
これと符合するかのように、トランプ大統領の「嵐の前の静けさ」発言が飛び出したことから、米国内では9日(日本時間10日)の北朝鮮の挑発行為に合わせて、米軍がなんらの軍事行動を起こす準備を整えているのではないかとの観測が高まっている。
ところで、日本では10日は衆院総選挙公示日に当たっていることから、米朝いずれかでも軍事行動を起こせば、否が応でも総選挙に強い影響を与えることは間違いないだけに、日本にとっても対岸の火事として座しているわけにはいかないのは当然であろう。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)