2020年に東京オリンピックが控えていることもあり、日本にやってくる外国人観光客は、今後さらに増えていくことが見込まれる。
日本政策投資銀行が韓国や中国、台湾などアジア8カ国を対象に行った調査(2017年実施、対象人数:4,149人)では、「今後、旅行したい国・地域はどこですか?(複数回答可)」という質問に対し、過半数を超える57%が日本の名前を挙げるなど、旅行先としての日本の人気は依然高い。
しかし、ここで課題になってくるのが、「インバウンドからいかに収益をあげるか」や、「いかに各地域が旅行者を呼び込むか」という点である。
特に後者については、観光が地域振興の切り札と見られていることもあり、さまざまなアイデアが実行されているが、各観光地や施設、自治体が独自におこなっている情報発信やプロモーションといった小規模なものが大半であり、どうしても効果は限定的になってしまう。
まして、日本にやってきた観光客が求めるものは時とともに移り変わり、しかもどんどん細分化している。それらのニーズを汲み上げて、観光コンテンツにフィードバックするマーケティング的な取り組みは、まだほとんどされていないのが実情なのだ。
■日本の観光に必要なのは地域を総合プロデュースする法人だ!
こうした「日本の観光の弱点」を克服するためのポイントとして『日本政策投資銀行 Business Research 観光DMO設計・運営のポイント――DMOで追求する真の観光振興とその先にある地域活性化』(ダイヤモンド社刊)で挙げられているのが、書名にもある「DMO」である。
DMO(Destination Management Organization)とは、観光地を明確なコンセプトにもとづいてデザインし、集客やブランディング、マーケティング、観光商品づくりの戦略策定をする法人のこと。いわば「観光の総合プロデューサー」であり、このDMOが機能することで、地域全体を総合的な観光戦略に裏打ちされた競争力のある観光地域に育てていくことができる。
海外では一般的なDMOだが、日本ではほとんど実績がない。しかし、すでに観光庁には157件ものDMO候補法人が登録され、その数は今後も増えていくことが予想される。では、「黎明期」といえる日本のDMOがこれから目指すべきものは何なのか。本書から見ていこう。
・地域インフラの再構築
観光振興の基礎にあるのは地域の魅力あるコンテンツを生み、育てていくことであり、地域資源を発掘していくこと。それは観光振興にとどまらず、地域にとって最も重要な社会インフラを構築することに通じている。
・観光振興の継続性の確保
地域振興の難しさは、一過性の流行では意味がない点にある。継続的に観光振興を行っていくためにも、DMOが長期的に安定して活動できる財務基盤を整備することと、人材を育成することが不可欠となる。
・観光関連事業者の活性化と再編
労働人口の減少はどの地域でも課題となる。スタッフや設備、建物など資源を観光ニーズの変化に合わせていかに再編・再集中できるかが観光による地域振興のカギになる。それを担うのもDMOの役割なのだ。
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今後の日本の観光戦略の屋台骨を担うといっていいDMOについて、本書では運営方法やビジネスモデルの設計、海外の成功事例などが詳しく解説されている。
観光業者はもちろん観光行政関係者、自治体職員、そして観光分野に興味を持つビジネスパーソンなど多くの人にとって、本書から垣間見える「日本の観光業の未来の姿」は刺激的で、示唆に富んだものであるはずだ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。