■「中小企業の『M&A』は最良の選択肢の一つである」
「M&A」は、企業のオーナーが利益を得るための手段だと考える人も多いだろう。事実、ニュース番組でも話題になるM&Aの中には、利益の追及などの目的での事業売却も行われており、それがネガティブなイメージを生んでいるのかもしれない。
その上、設備や不動産などの財産はともかく、大切に育ててきた事業や一緒に汗を流した従業員を“売り物”にすることへの抵抗を感じるのは、むしろ自然なことだ。
しかし、中小企業の「M&A」においては、友好的なものも多く、創業者の思いと、醸成してきた独自の技術やサービスを引き継ぎ、従業員の雇用を守れる最良の選択肢の一つだと畑野氏は考えている。
ここで一つ、例を挙げて考えてみよう。オーナー企業であるA社には後継者がいない。そこでA社のオーナーは、第三者であるB社のグループ会社となり、A社を継いでもらおうと考えた。株式譲渡でA社を売却すると、B社に承継されるのは株式の所有者と経営権だけだ。事業自体や従業員も含め、A社の資産と負債の権利と義務はA社に残る。
この売却の目的は、株式を売却した金銭だけだろうか?
もちろん、A社のオーナーは、引退後の十分な生活資金を得ることはできるが、それ以上に「事業の存続」や「従業員の雇用」が守られることに大きな意義がある。「廃業」を選ぶよりも格段にメリットが多いことは一目瞭然だ。
また、B社にとっても企業規模の拡大や、技術やノウハウ、人材の獲得など多くのメリットがある。このように、関わる人すべてが幸せになれるというのが「M&A」の本質なのだ。
それでも、「M&Aは実行するのが難しいのではないか?」と考えてしまう人もいるだろう。その不安の一つには、売り手の「うちの会社には株式価値がつかない」という先入観がある。つまり「本当にうちの会社が売れるのか?」という不安だ。
しかし、中小企業でM&Aが成立するケースを見ると、そんな不安は吹き飛ぶだろう。
実際に「純資産3,000万円」「営業利益が1,500万円」「従業員数3、4名程度」の規模の会社が、1億円ほどで売買が成立するケースもある。豊富な知識と経験を持つM&Aアドバイザーを頼れば、自社の事業や企業理念、従業員を大切にしてくれる譲り受け企業の経営者に譲渡することができる。さらに「経費を整理した状態で少しでも利益が出る可能性がある」「経営者の引退までまだ猶予がある」という状態であれば、M&Aが成立する可能性は高いという。
「M&A」という選択は、安易に「廃業」を選ぶよりも、はるかに多くのメリットがある。本書では、そんな「M&A」のメリットや実践する際のポイントが紹介されている。豊富な事例の中には後継者問題だけでなく、若手経営者の事業戦略のヒントになるような事例も含まれているため、中小企業やベンチャー企業の経営者なら一読する価値がある一冊だ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。