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釈由美子、“今年一番の問題作”で海外デビュー…パンデミック・ホラー映画撮影での体験

構成=中野龍/フリーランスライター

釈由美子、“今年一番の問題作”で海外デビュー…パンデミック・ホラー映画撮影での体験の画像1

 2年前に撮影したにもかかわらず、コロナ禍のパンデミックを予見したかのような内容が話題となっている作品がある。致死ウイルスが蔓延し、地獄と化したホテルを舞台にした今年7月2日公開予定の映画『ロックダウン・ホテル/死霊感染』(フランチェスコ・ジャンニーニ監督、カナダ制作)だ。

 同作で海外進出を果たし、重要な役どころとなる妊婦・ナオミを演じているのが、女優の釈由美子。彼女自身も「偶然にもこの悪夢のような世の中と重なる作品になり、私も驚いています」と衝撃を受けている。2016年に男児を出産し、母親となって初の映画出演。しかも初の海外作品。異国の地でウイルスに感染し、もだえ苦しむ妊婦役を見事に演じきった彼女に、コロナ禍との偶然の一致、撮影の舞台裏、そして女優として母親として今考えていることを聞いた。

――パンデミック・ホラーを描いた作品ですが、撮影中はまさかコロナ禍の現実と重なることになるとは、思いもよらなかったはずです。

釈 謎の殺人ウイルスによる感染爆発が起きたホテルを舞台にしたパンデミック・ホラー作品で、私は夫からDVを受けて異国の地のホテルに逃れてきた臨月間近の妊婦ナオミという役を演じています。2年前の2019年1月にカナダのモントリオールで撮影したのですが、まさかその後にこのような世界的なパンデミックが到来することなど想像すらできませんでした。完成した作品を改めて観て、コロナ禍とリンクしている内容に鳥肌が立ってしまいました。

――海外作品は初めての出演でしたが、大変なことも多かったのでは。

釈 初めての海外作品でしたので、オファーをいただいて不安はありましたが、武者修行の気持ちで出演を決めました。台本はもちろん英語で書いてあるので、最初は業者さんに頼んで訳してもらおうとも思ったのですが、結構な費用がかかるんですよ。台本は何度も変更されるものなので、意を決して初稿から自分で辞書を引きながら訳しました。痙攣(けいれん)という意味の“convulsions”など、学校では習わなかったような単語もあり、結構大変でしたね(笑)。

――全身が痙攣し、苦しみのたうち回る姿は迫真の演技でした。背筋が凍りました。

釈 少しネタバレになってしまいますが、ナオミもウイルスに感染することになります。ゾンビのような特殊メイクだけでなく、白目むき出しで痙攣するお芝居は捨て身の覚悟で臨みました。こむら返りのような足で這いつくばっているシーンもありますが、実際に何度も足をつりました(笑)。全身筋肉痛になって、痛みに耐えながらの撮影でしたね。これが日本の作品だったら、少し守りに入っていたかもしれません。やはり美しくない顔を見せることに抵抗がないと言ったら嘘になるので。海外作品だったからこそ、体当たりで演じられたのだと思います。

――劇中のホテルに実際に泊まって撮影していたようですね。映画では心霊現象なども描かれていますが、怖くなかったですか。

 1フロアを撮影用、もう1フロアはキャストとスタッフの宿泊用にして、2週間泊まり込んで外に遊びに出ることもなく、本当に閉じこもったロックダウン状態での撮影でした。作り手側の気持ちになっていたので、怖いとかはなかったですね。むしろ、ゾンビのようなメイクも慣れると楽しんでいました。全棟貸し切りではなかったので、そのままホテルをうろついていて、他の宿泊客の方たちを「オーマイガー!」って驚かせてしまったり(笑)。メイクのまま、うちの息子にテレビ電話をして怖がらせてしまったこともありましたね。

――もともと海外で挑戦したいお気持ちはありましたか。

釈 そんなこと恐れ多くて、まったく考えていませんでした(笑)。でも、日本とは異なる海外の作品づくりに興味がありましたし、やったことのないジャンルに挑戦したい気持ちがあって出演を決めました。ホラー作品は主人公のイズコ役を演じた『スカイハイ』などの経験がありますが、その時は非業の死を遂げた死者を送り出す“怨みの門”の門番という役柄だったので、恐怖に震え、もだえ苦しむ役柄は今作が初めてでした。その他にもすでに撮影を終え、公開を控えている日米合作映画もあります。海外の作品に出演することは新たな目標になりました。いつでも挑戦できる準備はしておきたいと思っています。

――しかし、女優業だけでなく、お母さんとして子育てと両立するのは大変ですよね。

釈 まだ息子は4歳なので、前よりもゆっくりとしたペースで仕事をさせてもらっていますが、主人が子育てに協力的なので助かっています。独身の頃は今作のようなヘビーな作品では、ずっと役に入り込んでいましたが、今は息子が幼稚園に行っている時などに集中して役のことを考え、一緒にいる時はお母さんに戻るようにしています。うまく切り替えができるようになり、むしろストイックになりすぎず、いいバランスで仕事にも向き合えてます。

――今作では妊婦役を演じていますが、出産を経験していることでお芝居に生かせた部分もあったのでは。

釈 母親になってから初めての映画出演でしたし、リアリティーを持って演じられたと思います。小さな芝居でいうと、妊娠中はお腹が苦しいので、がに股でふんぞり返ったような歩き方になってしまうんです。こんな感じだったなと、思い出しながら演じました。また、母は強しじゃないですが、守るものがあると女性は強くなれるんです。異国の地で一人で出産しようとしているナオミの覚悟の部分も、しっかりと表現したいと意識して演じました。

――最後に女優として、母として、今考えていることを聞かせてください。

 私も40代になり、これからは生きてきた年輪みたいなものもお芝居に出していけるようになりたいと思います。

 こういう役がやりたいと限定するのではなく、例えば殺人鬼など振れ幅のある役柄にも挑戦してみたい。子育てをしているリアルな生活のほうが、よっぽど鬼のような顔をして、子供を追いかけ回してますからね(笑)。今はどんなお芝居でも、何でもやらせていただきたいと思っています。

 そして、母親としては、子供が「でんでんむしむし、カタツムリ♪」と歌い出した頃にカタツムリを見せてあげようとしたのですが、都心ではまったく見かけないんです。遊園地にいると聞いて行ってみたら、インスタ映えのために1回500円で貸し出していたんですよ(笑)。もうびっくりでした。その後、自然豊かな郊外に引っ越し、今は息子と一緒になってオタマジャクシを捕まえたり、ツクシを探したり、外を駆け回っています。息子が成長した時に暮らしやすい環境の世の中にするためにはどうすればいいのか。女優という表現者としても、何か世の中のためにできることはないか。母親になってから、SDGsや教育のことなども勉強しながら、より社会のことを考え始めています。

(構成=中野龍/フリーランスライター)

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