「サービス向上」を目標する企業は多いだろう。しかし、その「サービス」を現場で働く従業員やスタッフの経験や勘、スキルに大きく依存しているケースは少なくない。特定の人材に頼っているばかりでは、継続的に質の高いサービスを顧客へ提供するのは至難の業だ。
そんな「サービス」の在り方を根本的に見直し、本質を学べる一冊が『「最強のサービス」の教科書』(内藤耕著、講談社刊)である。
本書では、継続的に顧客から高い支持を得ている企業が紹介されている。それらの企業に共通するのは、積極的な機械化やIT化、マニュアル化、仕組み化の導入を推進していることだ。
■「機械化」でサービスを向上させる有名老舗旅館
機械化やIT化、マニュアル化といった効率重視の取り組みは「サービス」の対極にあるように思えるかもしれない。しかし、「どこにその取り組みを施すか」というポイントに注目すれば、そうした思いは短絡的だということがわかるはずだ。
日本のサービス産業の代表格でもある、旅館「加賀屋」の取り組みは、そのことを理解する好例だと言える。加賀屋が評価される理由は、徹底した「おもてなし」にある。おもてなしとは、客を手厚く世話することだ。そのために必要なものは何か。
それは、宿泊者のニーズを察知するための接客時間だ。
例えば、加賀屋では、食事の内容や時間、施設の説明をする間に、宿泊客の予定や要望、嗜好を可能な限り聞き出している。こうした客のニーズを満たす情報を得るためには、接客に多くの時間を割く必要ある。
そこで加賀屋は、極力ムダな時間を削れるよう宿泊客からは見えないところにバックヤード動線をつくり込み、自動的に各フロアに料理を運搬するシステムを取り入れた。これにより、客室係は料理を最低限の距離だけ手で運べるようになっている。つまり、接客に仕える時間を増やしているのだ。
■効率的な「仕組み化」でサービス力を上げたクリーニング店
もう一社紹介しよう。
東京、埼玉を中心にクリーニング多店を展開している「株式会社喜久屋」は、新しいサービスの仕組み化に成功し、需要が減っているクリーニング業界で躍進著しい企業だ。
同社では、新たな価値を顧客に提供するための取り組みを行っているという。その一つが「eクローゼット」というサービスだ。このサービスでは、通常のクリーニング費用だけで、最長で半年間、防虫、防カビに対応した倉庫で衣服を預かってもらえる。つまり、春にクリーニングした冬物を、秋頃まで預けられるのだ。
これによって生み出されるのは「顧客の自宅スペースの余裕」という付加価値だ。注目すべき点は、顧客にとって嬉しいサービスでありながら、同社の経営にもプラスに働いているところにある。
衣替えの時期になると、クリーニング店における洗濯作業の稼働率は跳ね上がる。その反面、通常時の稼働率はそこまでではないし、雨天時には落ち込む。閑散期ともなれば作業量と人、設備、施設の釣り合いが取れずコストだけがかかってしまう。
しかし、「eクローゼット」によって、引き渡しが半年先だと決まっていれば、わざわざ繁忙期に洗濯作業を行う必要はない。相対的に作業量が少ない時期に洗濯作業を行えば、人、設備、施設の稼働ロスを軽減することができるのだ。
これは店側の利益や稼働を最大限に伸ばしつつ、顧客へのサービスを提供している好例と言える。
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日本のGDPのおよそ7割を占め、雇用の大きな受け皿もなっている「サービス産業」。AI時代の到来で消える職業が出てくると言われるなか、サービス産業の持つ役割はますます大きくなっていくことが予想される。そんな時代を迎えるに当たって、従業員やスタッフの肉体的、精神的負担や会社のリスクを減らしつつ、顧客の満足度を高める「サービス」の在り方を考えることは急務だろう。本書からは、そのためのヒントが得られるはずだ。
(ライター/大村佑介)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。