「働き方改革」が注目され、日本人労働者の生産性向上が叫ばれる今、改革すべき場所として「サービス業の低生産性」を挙げる識者は多い。
象徴的なのが「おもてなし」である。
いまひとつ定義のはっきりしない「おもてなし」だが、ゴールははっきりしている。「顧客の期待をはるかに凌駕するサービスを提供して、感動を与えること」だ。言葉にすると聞こえはいいが、これは言い換えれば価格に対して過剰なサービスがなされるということで、合理性は薄い。
もちろん、サービス業の現場で一個人が自主的に「おもてなし」をするのはその人の自由。問題は企業の側が、こうした過剰サービスによって顧客を感動させることが、いずれ売上や利益に結びつくと妄信しがちなところだ。
いま一度考えてみよう。顧客を感動させることは本当にその後の購買やサービス利用に結びつくのだろうか?
■「おもてなし」は自己満足か 「顧客を感動させること」の経済価値とは
『おもてなし幻想 デジタル時代の顧客満足と収益の関係』(マシュー・ディクソン、ニック・トーマン、リック・デリシ著、神田昌典、リブ・コンサルティング監修、安藤貴子訳、実業之日本社刊)は膨大な量の調査データを元に、この疑問に切り込んでいく。
会員制の大手顧問企業CEBは世界各国の数千に及ぶ会員企業の協力のもと、直近で顧客としてカスタマーサポートを利用し、その時の経験をはっきり記憶している約10万人を対象に、
・カスタマーサービスを利用した理由
・問い合わせへの担当者の対応とプロセス
・顧客の期待を超えるための企業側の努力の有無
・その後の購買につながるかどうかの評価
などに関する詳細な調査を行った。その結果は、私たちが社会通念として思っているものとも、企業が好んで使う戦術とも全く異なっていたという。
結論からいえば、サービスが顧客の期待を上回っていたからといって、顧客ロイヤルティ(顧客がブランドやサービスに対して感じる「愛着」や「信頼」。購買に繋がるとされる)が高まるわけではない。
企業の認識としては、サービスが「顧客の期待を下回る」「顧客の期待を満たす」「顧客の期待を上回る」の順にロイヤルティは高まり、しかも「顧客の期待を上回る」時は爆発的にロイヤルティが高まって、その顧客は自社の大ファンになると考える。
だからこそ「顧客に感動を与えること」がもてはやされ、他社との差異化をこの点に求める企業が多いのだが、現実はもっと残酷だ。
調査によると、サービスが「顧客の期待を下回る」ケースでは顧客ロイヤルティは低いが、「顧客の期待を満たす」と「顧客の期待を上回る」とでは顧客ロイヤルティはほぼ同じだった。つまり、顧客感動を求めて行う努力に、私たちや企業が思っているほどの経済的価値はないのだ。
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『おもてなし幻想 デジタル時代の顧客満足と収益の関係』では様々な調査から得られたデータから、「おもてなし」に代表される、顧客感動への無償の努力の無効性を説き、収益に結びつくカスタマーサービスを行うための要点を明かしていく。
「おもてなしの心」は大事だが、過剰サービスをしたところで客がつくわけではない。顧客行動の本質を知るうえで、マーケティング担当者や経営者など、本書から学びを得られる人は多いはずだ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。