世界中の経営者に影響を与えた経営学者といえば、ピーター・F・ドラッカーだ。日本でも多くの信奉者がおり、“もしドラ(『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』)”旋風で経営学を知らない人にもその名は広がっている。
しかし彼は経営学者とは別の顔も持っている。それが「史上最高の経営コンサルタント」というものだ。
大学院生時代にドラッカーに師事し、現在は大学教授やコンサルタントとして活動するウィリアム・A・コーエン氏は『ドラッカー全教え 自分の頭で考える技術』(井口耕二訳、大和書房刊)において次のように述べる。
――彼が実際どのようにコンサルティングをしていたのか、については、世の中にほとんど知られていない。いや、そういう意味では、彼がどういうアドバイスをしたのか、あるいはしなかったのかについても、ほとんど知られていない。耳を傾けてくれる人には本人が語っているのだが、彼の着想はすべて、コンサルティングの現場で得たものだ。 (p.22より引用)
ドラッカーにとって、実は顧客やその組織は格好の実験室だった。問題は机の上ではなく、会社の中で実際に起きている。いくつものパターンから原理を掴み、経営の本質を導き出し、現実のビジネスに応用していったのだ。
■成功の鍵を握る8つの項目とは?
本書『ドラッカー全教え』は、そうしたドラッカーのコンサルタントとしての側面にスポットを当てながら、ビジネスにおいてより実践的な考え方を分かりやすく噛み砕いて解説している。
「何よりもマーケティングを最優先する」「5つの質問で問題を客観視する」「『みんなが知っていること』を疑う」など、通読することでブレがちなマネジメントの方針を定めることができるだろう。
それだけではない。著者のコーエン氏は本書の終盤で、ドラッカーの足跡を辿りながら、成功の秘訣のヒントを8つにまとめている。これは非常に示唆に富む8項目となっているので取り上げたい。
1.子ども時代の教育も、それによる機会も、よくも悪くもそれだけですべてが決まるわけではない。
2.長期にわたって成功を収めたければ、誠実であるのが一番である。
3.障害など、そのうち消える。
4.自分の仕事に関する勉強を他人に頼らない。
5.本を書く。
6.偶然に頼りすぎない。
7.一番の専門家は当事者である。
8.自分の頭で考え、行動に移す。
例えば、「2.長期にわたって成功を収めたければ、誠実であるのが一番である」。
これは何があっても譲れないところだとコーエン氏。真摯さを後回しにして消えていった有名人はどの業界にもたくさんいる。もし、一時的には損をしそうだとしても、真摯さを忘れないことが、長期的な成功を収める大きな要因となるのだ。
続いて、「3.障害など、そのうち消える」。ドラッカーはオーストリア出身のユダヤ人だが、第二次大戦中自分の論文がナチ党の怒りを買うことを見通し、ロンドンに移住した。こうした「小さなこと」を経て、15年かかり有名大学の大学院で教鞭を執る夢を叶えるに至った。しかし、彼の存在は単なる大学教授に留まらず、世界的な学者として名を馳せている。
目的地までの道に障壁があるとしても、いずれは消える。その間にできることをやっていれば、夢のさらに先に行ける可能性が拓けるということを教えてくれるのだ。
この「成功のために必要な8つの項目」は自分自身がブレてしまったときの指針になるはず。
ほかにもたくさんのドラッカーの考え方のエッセンスが学べる本書。ビジネスのフィールドで生きていくために必要な知恵を与えてくれる一冊だ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。