いい商品を作っていれば売れた時代はとうに終わり、広告もマスに向けたものからターゲットを絞り、ピンポイントで出す時代になっている。
そんなことは企業のマーケティング担当者であれば誰でも知っていることだが、それでも「今までやってきたやり方が通用しなくなっている」「SNSなど最新のツールを使ってはいるが期待した効果がない」と悩む人は少なくない。これまでのやり方ではダメだが、かといって解があるわけでもない、というのが現状ではないか。
■「買ってくれるけどファンではない人」「買わないけどファンの人」
電通のクリエーティブ・ディレクター、石原夏子氏は、これからのマーケティングのキーワードとして「偏愛」を挙げる。いかに自社製品のファンになってくれる層を見つけ出し、彼らの心に火をつけ、その火を消さないようにするかがこれからのマーケティングの課題というわけだ。
ただし、石原氏のいう「ファン」とは、単純な「購買者」や「参加者」ではなく、ある商品・サービスの「次」に期待している人だという。たとえば、あるアーティストの昔のヒット曲は大好きだが新曲には興味がないという人は、石原さんのいう「ファン」ではない。
逆に、一着も買ったことがないものの、ある洋服ブランドが来シーズンどんな新作を出すか楽しみにしているという人は「ファン」である。こういう人ほど、何かのきっかけで一度心に火がつけば長い顧客となる可能性が高い。マーケティングで大事になるのは、後者との接点づくりなのだ。
■「私のことをわかっている」がマーケティングの成否を決める
では、人はどんな時に何かのファンになるのだろうか。対象が何であっても理由なく「偏愛」することはあり得ない。そこには何らかのきっかけがあったはずだ。
石原さんは著書『偏愛ストラテジー ファンの心に火をつける6つのスイッチ』(実業之日本社刊)で、このきっかけについて、
――利便性や機能性よりも「私のことをわかっている」が偏愛につながる(P46)
としている。商品そのものの特性よりも、情緒への訴えかけが「偏愛」のきっかけになりやすい。ならば気持ちのアップダウンの大きいタイミングに合わせ、その不安定な気持ちに寄り添うメッセージを出すことが有効になる。だから、マーケティング担当者は自社商品・サービスがうれしく、気持ちにぴったりくる場面を探すか、その場面を作るべきだ。とにもかくにも、そこがファンづくりの第一歩となる。
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ターゲットとなる層に「偏愛」の種を植え、育て、熱を冷まさないためにはどんな方法が有効なのか。本書では、あるバンドの熱烈なファンだという石原氏が、「偏愛する人」としての自身の行動を分析しながら、自らが体験したセブン&アイHLDGSや日本マクドナルドのコミュニケーションの中で自らが実践したマーケティング上の示唆を導き出していく。
もし自社のマーケティングがうまく行かないことで悩んでいるなら、自分が過去に何かを熱烈に好きになった時のことを思い出してみるといいかもしれない。その後で読めば、本書は一層大きな気づきを与えてくれるはずだ。
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。