時代とともに「優秀な人材」の人物像は変わる。
ひと昔前であれば「既存の業務をうまく回す力」や「組織を引っ張る力」を持つ人材が優秀とされてきたが、今はそれよりも「新しいビジネスを生み出す力」や「既存の枠組みを壊し、創生する力」の方が重要視されるようになっているのは、ビジネスの現場にいる人であれば日々感じていることではないだろうか。
しかし、こうした「イノベーター」を育成することは簡単ではない。そもそもロールモデルにできる人間が少ないのに加えて、時代の変化が速く育成ノウハウが陳腐化しやすいからだ。
■「多様なエキスパートの育成」がイノベーションを作る
『社員が「いつの間にか」成長するスゴイ育て方 自ら動く社員をつくる最高の人材育成』(富士通ラーニングメディア著、ダイヤモンド社刊)は、こうして年々難題となっていく人材育成で、企業に今必要な考え方や人材戦略の立て方を解説する。
これまで企業の人材育成は、まず目標とする「理想の人物像」を定め、その人が備えているスキルをすべて可視化し、育成する人材に対して、それを1つずつ習得してもらい、すべて身に付けばゴール、というやり方が一般的だった。
スキルの習得には研修やeラーニングが利用され、適宜テストで習得度をチェックする。モチベーション向上には資格制度や認定制度が効果的だった。
しかし、これからの人材育成では、目標となるモデル人材も理想の人材像も存在しない。「イノベーター」とはある種のものの考え方やマインドセットを持つ人のことであって、具体的な人物像でもスキルセットでもないからだ。もちろん、そのマインドセットが特定されているわけではない。
こう書くとまるで暗中模索のようだが、本書ではこれからの人材育成に必要なポイントとして
・アウトプットは「スピード重視」。「最初から完璧(高品質)」ではなく、「まずはスピード感を持って形にする」ことを評価する雰囲気やしくみをつくる。
・個人の平均点を上げる教育ではなく、個人の素質を存分に生かす教育や配置により、組織の中で新しい価値を生み出す「共創力」を高める
の2点を挙げる。個々人の資質に注目し、そこに投資することで「この分野なら誰にも負けない」というエキスパートを育て、多様なエキスパートの掛け合わせによって組織としてイノベーションを生み出していくというわけだ。
また、変化の速い現代の人材育成では、育成する側にもPDCAを速く回し、トライ&エラーを繰り返しながら最適解に近づいていく「デザイン思考」や「アジャイル」が必要とされる。本書では、自ら成長し新たなビジネスを作ることができる人材を育てるための戦略作り、人材戦略の策定にあたっての考え方、仕組みづくり、運用までをトータルに解説。今、企業が人材育成で悩みがちなポイントを押さえた内容となっている。
人材育成の差は10年後、15年後に企業の業績となって返ってくる。「いつか余裕が出てきたら」ではなく、変えるべきは今である。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。