経営において、「何をはじめるか」ということと同じくらい大事なことがある。それは「何をやめるか」ということだ。
上手くいかないときは、どうしてもあれこれと手を広げたくなるもの。そして、余計なコストがかかってしまったり、本業に集中できなくなったりということが起きてしまう。ただ、「何かをやめる」ということに対して思い切ることができる経営者はなかなかいない。だからこそ、おそらくこの本の著者の「決断」のエピソードは大いに参考になるはずだ。
『余計なことはやめなさい! ガトーショコラだけで年商3億円を実現するシェフのスゴイやり方』(集英社刊)は、「ケンズカフェ東京」オーナーであり、ファミリーマートのスイーツ監修も手掛ける氏家健治氏による一冊である。
■「余計なこと」をやめていく
氏家氏は1998年にイタリアンレストラン「ケンズカフェ」を新宿御苑駅近くに開店。以後、ランチ、喫茶、ディナーを提供し、ガトーショコラの販売、ネット通販の商品販売などのビジネスを展開してきた。
これだけ見れば「幅広く」展開しているように思えるが、今、氏家氏がやっていることはガトーショコラ専門店「ケンズカフェ東京」の経営だけである(フランチャイズビジネスや講演・執筆活動は除く)。ランチや喫茶、ディナー、ネット通販もすべてやめたほか、シェフも卒業してしまった。
そこには徹底した「余計なこと」の排除があり、ビジネスのスリム化を率先して行ってきた。ただ、氏家氏が述べる「余計なこと」は、普通の感覚からすれば「本当にやめちゃっていいの?」と思えるものが多い。
・いくつもの商品やサービスは「余計なこと」
・値下げ圧力に応えるのは「余計なこと」
・複数店舗展開は「余計なこと」
そして、これらは一度始めたらなかなかやめられないものでもある。それを「余計なこと」としてどんどんやめていったのだ。
■4Pのうちの「3つのP」を重点的に見直す
氏家氏がとった戦略のポイントは、マーケティングの4P、プロダクト(商品・サービス)、プライス(価格)、プレイス(流通・店舗)、プロモーション(宣伝活動)のうち、プロダクト、プライス、プレイスを徹底的に見直し、その分の資金をプロモーションに注力するという態勢を整えた部分だろう。
まずは、プロダクト。ランチや喫茶、ディナーをやめ、ガトーショコラ1本に絞り込んだ。その結果、販売データの分析が容易になり、マーケティングがしやすくなったというメリットがあったという。
次にプライス。氏家氏はこれまで3回にわたってプライスを見直し、短い期間の間に値上げを断行してきた。最終的に、内容量が半分になりつつも、価格は実質4倍以上になったものの年商は伸び続け、創業20周年の今年は3億円の見込みだ。
値段を上げたことで客筋が良くなり、真剣に商品と向き合うことができるようになった。さらに、「プロダクト×プライス」の掛け算によって高級ブランドとしての価値が高まり、プロモーションにもつなげられたのだ。
そして、プレイス。ケンズカフェ東京の店舗は新宿御苑近くにあるだけの1店舗だけ。新店の計画はなく、ネットでの通販もやめてしまった。これはブランドの本質を見据えてのことであり、「限られた場所でしか手に入らない」という希少価値が百貨店との取引につながったと氏家氏は述べる。
氏家氏の考えの全容は本書を通して学んでほしいのだが、これは「ケンズカフェ東京」という小さな会社だからこその戦略であるということも事実だ。
ただ、会社や店舗のステージが変わるたびに「本当にこれは必要なのか」と見直すことは大事なこと。そして「余計なこと」であるならば思い切った決断も必要なのだろう。
経営の重要な部分に立ち返ることができる一冊である。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。