私たちは自分が考える以上に思い込みの中で生きているようだ。常識も、普通も、当たり前も、疑うことをしなければ、最新のデータにアップデートされることはない。しかし、人間はそれをあまり疑わずに、過去の情報や思い込みを「正しい」と感じてしまう。
話題の本、『FACTFULNESS』(ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド著、上杉周作、関美和訳、日経BP社刊)のサブタイトルは「10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」である。
本書はデータを用いながら、今の世界の正しい姿を教えてくれる一冊であるのだが、著者たちが本当に読者に伝えたいことはそこではないだろう。重要なことは「思い込みを乗り越えて正しく見る習慣」を身につけるということだ。
だからこそ、読んでいると心がえぐられるような気持ちになる。いかに自分が「思い込み」を正しいと勘違いしていたかが分かってくるのだ。
本書であげられている思い込みは10個。
・分断本能/「世界は分断されている」という思い込み
・ネガティブ本能/「世界はどんどん悪くなっている」という思い込み
・直線本能/「世界の人口はひたすら増え続ける」という思い込み
・恐怖本能/危険でないことを、恐ろしいと考えてしまう思い込み
・過大視本能/「目の前の数字がいちばん重要だ」という思い込み
・パターン化本能/「ひとつの例がすべてに当てはまる」という思い込み
・宿命本能/「すべてはあらかじめ決まっている」という思い込み
・単純化本能/「世界はひとつの切り口で理解できる」という思い込み
・犯人探し本能/「誰かを責めれば物事は解決する」という思い込み
・焦り本能/「いますぐ手を打たないと大変なことになる」という思い込み
いずれも興味深いものばかりである。
各章では、まず著者によってあげられた事例がいかに「思い込み」にとらわれているかが説明され、最後の「ファクトフルネス」という項目で、その思い込みからいかに脱していくかが述べられている。
例えば「ネガティブ本能」では、「極度の貧困率」や「世界人口の平均寿命」などのデータを用いて、「世界は本当に悪くなっているのか」を検証し、「ネガティブなニュースのほうが、圧倒的に耳に入りやすく、物事が良くなったとしても、そのことについて知る機会が少ない」ということを指摘する。
確かに私たちが見るニュースや流れてくる情報はうんざりするものが多い。一方で良い出来事は少なく、「ゆっくりとした進歩」というポジティブな話題も報道されにくい。その結果、知らず知らずのうちに昔なんとなく聞いた情報をそのまま正しいと思い込み、現実とはかけ離れた情報を信じてしまっているのだ。
本書を通して、世界の正しい姿を知る以上に知るべきことがある。それは、正しい姿を常に見続けるための習慣だ。「極度の貧困率」が大幅に改善しているということは確かに事実だが、将来もそれが続いていくとは限らない。30年後の正しい世界の姿は、そのときのデータが教えてくれるものだ。
「分かっているつもり」「知っているつもり」にならないためには、「ファクトフルネス」の習慣を実践しながら、常に情報をアップデートしていくことが大切なのだ。
分かりやすさもさることながら、ユーモアたっぷりに語られる文体から、日本語に訳した翻訳者の見事な仕事ぶりを見ることができる。2019年上半期の話題の一冊。ぜひお試しあれ。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。