お客に待ち時間を「短い」と感じさせイライラさせない方法…実際の時間と感じ方に関する研究
一般に、人は客観的な時間をうまく推定できないといわれています。例えば、旅行や混雑した店での待ち時間を長かったとか短かったと感じますが、この感覚は実際とはかなり異なることがさまざまな研究から示されています。
マーケティング学者であるディリップ・ソマンは、この原因として、人間の脳には時計と同じ速さで動くカウンターがないことと、実際の経験時間よりも、その経験に関する断片的で顕著な情報がその感じ方に影響を与えることをあげています。時間はさらに、片付けるべき用事の整理にも心理的に影響を与えています。ソマンはこうした時間の心理について、他の研究者や自分自身の研究成果を自著の研究書にまとめています。興味深い内容なので、今回はこの本を中心に人の時間の捉え方について紹介したいと思います【註1】。
経験はどう記憶されるのか
ソマンによると、経験の記憶は3段階になっています。第一段階は「符号化」で、あとで思い出せるように、経験の一部や特定の瞬間を記録します。新しい経験や興味深い経験など、認知や感覚になんらかの変化をもたらすものが記録されやすく、これらはあとで思い出すときの手がかり、すなわち「記憶マーカー」になります。
第二段階は「ファイリング」で、さまざまな記憶マーカーを整理し、記憶に保持します。第三段階は、その経験をあとで思い出す「想起」で、記憶に保持された記憶マーカーを調べます。このとき、たくさんの記憶マーカーがあると、それらをチェックするのに時間がかかるため、その経験を長かったと感じることになります。
さまざまな新しい出来事や普段とは異なる出来事が含まれる楽しい経験をしているときは、時間が早く経過しているように感じられるかもしれません。しかし、その経験からはたくさんの記憶マーカーがつくられるので、回顧したときには「長い」経験と感じられるのです。逆に、代わり映えのしない経験は時間がゆっくりと過ぎているように感じるかもしれませんが、記憶マーカーがほとんどないか過去に形成したマーカーが弱くなっているため、回顧したときには「短い」経験と感じられることになります。つまり、時間の流れの感じ方は、経験中や経験直後とその経験を回顧したときとでは逆転するのです。
ところで、記憶マーカーは記憶に保持されているものだけではありません。旅行であれば、その間に撮った写真もマーカーになります。たくさん写真を撮れば、ほとんど撮らなかった場合と比べていろいろな出来事を思い出させるため、それらを見ながらその旅行を長く感じることになります。