普段から不自由なく使っている日本語も、ふと立ち止まってみると、疑問に思うことは少なくない。
干支の「戌」「戌年」はなぜ「犬年」ではないのか。明治時代、犬を「カメ」と呼んでいたのはなぜか。
などは、現代日本語の知識からはよくわからない。そんな日本語の疑問を解明するのが『日本語の大疑問 眠れなくなるほど面白い ことばの世界』(国立国語研究所編、幻冬舎刊)だ。
本書では、ことばのスペシャリストが集う国立国語研究所が、素朴だが奥深い日本語の疑問に回答していく。
なぜイヌ年を「戌年」と書くのか?
動物のイヌを表す漢字には「犬」や「狗」などがあるが、「戌年」の「戌」という漢字自体にはもともと「イヌ」という意味はないのだそう。
「戌」は元々武器のまさかりの形から作られた象形文字だった。ちなみに「戌」だけでなく、「子」や「丑」など他の十二支を表す漢字も「ネズミ」や「ウシ」という動物を表す意味はなかった。
十二支は月日などを表す記号のように用いられていたものであり、動物とは関わりがなかった。十二支の動物名はもともとあった十二支に後から割り当てられたもの。動物名を割り当てたことを明確に示す最も古い記録は、古代中国の後漢時代に著された『論衡』という書物に残っている。
なぜ十二支に動物名を割り当てたのかは、十二支を多くの人々が理解し覚えられるように、馴染み深い動物の名前をつけたのではないかなどの諸説あるが、はっきりとは解明されていないという。
明治時代に犬を「カメ」と呼んでいた?
明治時代、犬を「カメ」と呼ぶことがあったという。カメの起源には諸説あるが、有名なのは石井健堂の明治時代の日本の様子がわかる代表的な文献である『明治事物起源』(明治41年刊)の記述。
日本人が西洋の犬を「カメ」と呼ぶのは西洋人が犬を呼ぶときに「come,come(来い来い)」と言っているのを聞いて犬のことと思い、音がなまって西洋犬を指す名前になったという。つまり、聞き間違いから発生したことばだったのだ。
また犬の名前の代表格である「ポチ」という呼び名が誕生したのも明治時代。明治6年に畜犬規則が制定されると、飼い主の名札がついていない犬は野犬として殺処分されてしまうようになった。このことがきっかけで、家庭で犬を飼うようになる。当時のステータスは和犬ではなく、「カメ(洋犬)」を飼うことだった。そして、西洋式に「カメ」らしい名前ということで「ポチ」や「ジョン」といった名前がつけられるようになった。
他にも、「これ」「あれ」「それ」はどのように使い分けるのか? や若者言葉、LINEスタンプにいたるまで、日本語のさまざまな疑問を解き明かす本書。日本語の面白さ、奥深さを気づかせてくれる1冊だ。(T・N/新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。