体毛がつるっ禿げになったサルのような容姿で、直立二足で歩き、その体には布を纏い、労働という行為に勤しむ…。人間は他の動物から見ると、なんとも妙な生き物かもしれない。ただ、人間の他にも地球にはヘンな特徴を持つ生き物がたくさん存在する。
パンダはなぜ白黒になったのか 動物の見た目を巡る研究
『生き物たちよ、なんでそうなった!?: ふしぎな生存戦略の謎を解く』(五十嵐杏南著、笠間書院刊)では、サイエンスライターの五十嵐杏南氏が、生き物が生き残る上で辿った進化の過程を「なんでそうなった!?」をコンセプトに進化生態学の研究成果を交えながら紹介。不可解で面白い行動や生態的変化をわかりやすく解説する。
動物園でも大人気のパンダ。なぜパンダの体は白黒なのか。白黒の動物はパンダの他にも存在する。シマウマの白黒の縞は、血を吸ったり病気を広げるハエに体を見えにくくする効果があるから。シャチの黒い背中は上から見た時には海の深い青に溶け込み、白いお腹は下から見上げた時に空の明るい光とブレンドし、カモフラージュするのに役立つと考えられている。
では、パンダはどうなのか。白黒の体を持つ動物の中でもパンダの研究は難しく、その体の解明はされてこなかった。パンダは自然界での個体数が少ない上、人里離れた森の中で生きているので、野生で追いかけるのは難しいからだ。
この難題に立ち向かったのが、カリフォルニア大学デービス校とカリフォルニア州立大学ロングビーチ校の研究チームだ。彼らは、パンダの親戚のクマや他の動物と比較することで、パンダが白黒な理由を明らかにしようとした。陸上で生活する195種類の肉食哺乳類と39種の毛皮の写真を分析したのだ。ポイントは、背中・足・耳・頭と各部位を別々に比較したこと。
積雪や気温、日光の強さなど、動物が生きている環境と毛皮の色の関係を探り、分かったのが雪が降る場所に棲む動物が、冬になると比較的明るめの色の毛皮を生やしがちなことだった。そのためパンダの白の部分は、雪が降っているところで隠れるのに有利だと結論づけた。黒の部分は、木陰に隠れる時に役立つと考えられている。パンダは他のクマと違い、主食の笹に栄養が少なすぎて冬の間の脂肪分を蓄えられないので、冬眠ができない。白黒は、オールシーズン仕様のカモフラージュの妥協策だったと考えられるのだ。
では、顔も白黒なのはなぜか。顔の各部位は、コミュニケーションをとるために白黒であるという。たとえば、目はお互いを識別するためにあるという説が有力だという。2008年に行われた別の研究では、パンダが目の模様の違いも識別することができ、その後1年にわたり覚えていられることが確認されたからだ。
生き物は、さまざまな巧みな生き残り戦略で、ヘンな特徴を持つ進化をしている。そんな動物たちの不思議な世界を本書から覗いてみてはどうだろう。(T・N/新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。