海外に一人飛び出し、長期滞在。英語学校で英語を学びながら、異国からやってきた若者たちと同居生活。悪戦苦闘するときもあるけれど、新しい発見と刺激が溢れた毎日。
62歳にしてそんな「旅スタイル」をスタートさせた菊池亮さん。きっかけは妻を亡くしたことだった。趣味のギターを担いで渡航し、現地では日課のランニングで街をめぐる。
マルタから始まり、南アフリカ、コロンビア、アフリカ、ドイツ、台湾、東南アジア諸国をめぐった日々をまとめた『62歳、旅に出る! 覚悟の海外一人渡航日記』(幻冬舎刊)について菊池さんにインタビュー。その溢れるバイタリティーの秘訣は一体何なのか。
※インタビュー前編を読む(外部サイト「新刊JP」)。
新しいものに挑戦することは疲れる。それでも挑戦すべき理由
――この海外渡航日記はご自身のウェブページにアップしていたものですが、菊池さん1998年からインターネットで情報発信をするなど、新しいものに積極的な姿勢がうかがえます。そういった姿勢でいられる秘訣を教えてほしいです。
菊池:秘訣はないんですけど、私の父親はとにかく新しいものに人一倍興味を示し、発売されたばかりのパソコンを買ったりしていたんです。フロッピーよりも前の時代で、当時はカセットテープでローディングしていたんですよ。だからその後のパソコンの進化は見ていて面白かったし、新しいことがどんどんできるようになっていったので、その中でホームページを立ち上げたりしていました。
――まさに一歩踏み出すと世界が広がるというわけですね。
菊池:そうですね。だから、積極的であり続けるコツは、すべて学びだと思うことですかね。何かを知ろうとしたら、ネットで調べれば一応知識だけは得られますよね。昔は図書館で1日調べていてようやくたどり着いていたのが、今は瞬時に分かるようになった。それは実は学んでいるつもりのはずが実は全然自分の中に残っていないということかもしれません。
――確かに時間をかけた方が自分の中に残るという感覚は分かります。
菊池:新しいものに触れるって、学習をしなくてはいけないから、ある程度それに慣れるまでは時間もかかるし、疲れるし、億劫なものです。それに、最初から諦めちゃっているときもある。私の場合はギターとランニングです。誘われても自分には絶対できないと思って断り続けてきたけど、それでもやろうと引き上げられたら、自分にとって本当に大事なものになりました。この二つの経験から得られたことは、若い人たちに伝えたいことですね。
――今、お話に出てきたランニングはまさに菊池さんにとって切っても切れないものです。この本の中でも世界各地でランニングを楽しみ、南アフリカではウルトラマラソン(42.195km以上の距離を走るマラソン)に挑戦されていますね。走りながらその街を探検しているような姿も見えました。
菊池:それはありますね。旅行でも知らない街はまず歩く。これが何よりも面白いです。自分が宿泊している場所の周囲をまずはぐるぐるとまわるんです。しかも何があるか調べずに。そこで目立っている建物やモニュメントはだいたい名所なんですよね。
――マルタのくだりでは、菊池さんのランニングの様子とともに街の雰囲気が伝わってきました。
菊池:ここには書いていないけれど、ハワイのホノルルでは、宿舎からホノルル空港までの道をランニングしました。皆さんは空港から市街地までの道ってあまり意識して見ていないと思うけれど、ランニングで辿るといろんなものが見えてくるんです。
私は誘われてランニングを始めたのですが、最初はかなり渋っていたんですよ。学校では宿題を忘れたら2周走るとか、部活遅れたら3周走るとか、いわゆる「罰」の象徴ですよね。だから、辛いものだとか、面白くないものと私の頭にすり込まれていたように思います。
ただ、実際に走り始めたら、とにかく楽しい。仲間と「利根川楽走会」というランニングサークルを立ち上げたのですが、そこはゆっくり話しながら走ることがコンセプトなんです。走ることを「真面目」に捉えすぎないでほしい。速く走らなくちゃいけないということはないし、疲れたら立ち止まってもいいんです。ランニングって、自由なんですから。そして、ゆっくり走っていれば、だんだんとスピードも上がってきます。浅井えり子さんが書かれた『ゆっくり走れば速くなる』という本があるのですが、まさに私はそれを実践していました。
――海外の知らない街をめぐるということについて、注意しなければいけないのがトラブルです。治安が悪い地域もあったりしますよね。実際に菊池さん自身は南アフリカでナイフを持っていた男性に襲われそうになったりもしています。そういったトラブルへの対応についてアドバイスはありますか?
菊池:そういったトラブルの可能性はどこでもあると思います。だから、まずは現地の情報をしっかり入手すること。外務省が海外渡航に関する情報を出していますけど、どのようなトラブルが起きているのか、起きる可能性があるのか把握して、覚悟して行くことが必要です。
私が南アフリカで襲われたのは、自分の行動の甘さが原因でした。滞在していたケープタウンは南アフリカの中でも比較的安全とされてはいましたが、危険情報はもちろんあります。その中で現地に慣れてきたこともあって、少し遅い時間に人出の少ない通りを歩いていたところでトラブルに遭遇したんですよね。おそらく私はその道に入る前から狙われていたんでしょう。
その時は落ち込みましたが、「これからも勇気を出して果敢に行動してください」というメッセージには励まされました。トラブルに遭ったからもうやめるのではなく、より注意をしながら行動を続けよう。そう思いましたね。
――「二人分の旅を一人でやる」ということが菊池さんの旅のキーワードです。振り返ってみて、ご自身の旅をどのように総括していますか?
菊池:これは亡くなった妻の分も含めて楽しもうということなんですが、やっぱり二人で旅行に行きたいですよ。でもそれはできないわけだから…。でも、この「二人分の旅を一人でやる」という言葉が、自分にとって精神的な支えになったのは確かです。事あるごとにそう自分に言い聞かせてきました。今振り返ると、すごく力になりましたね。
――最後に、『62歳、旅に出る! 覚悟の海外一人渡航日記』について菊池さんの周囲からどのような反応がありますか?
菊池:先ほどもお話した「利根川楽走会」の仲間たちに、この本をお渡ししたんです。この本には楽走会の始まりについても書いていて、表紙に写っている私の写真にも「利根川楽走会」の文字が見えますから(笑)、本と楽走会は切っても切れない関係にあると言えるので。そうしたら、皆さん喜んでくれました。
実は本を出したことを公表する前に不安になり、一緒に楽走会を立ち上げた和島さんという方に読んでもらいました。どんな反応をされるのか知りたくて。そうしたら「今、読み始めたけれど、もう引き込まれました。さっそく仲間に紹介したい」と言ってくれたんです。その後また連絡がきて「一気に読みました」と。
また、この本を読んだという方の「元気をもらった」というコメントも見ましたし、すごくほっとしましたね。タイトルからすると、中高年の方が手に取りやすいのかもしれませんが、私は若い人たちにもぜひ読んでほしいと思っています。そして、この本をきっかけに多くの人たちとの輪が広がれば嬉しいです。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。
※画像はイメージ(新刊JPより)。