長時間労働を「仕事が終わらないから」と毎日のようにこなし、それでも終わらない仕事は休日出勤したり、自宅に持ち帰って片づける。
気づけばかつて持っていた夢や目標は霞み、自分の存在意義は「会社のコマ」であることのみ。こんな状態を「社畜」と呼ぶのであれば、日本にはかなりの数の社畜がいるのではないか。
人を社畜にする言葉たち
『社畜語辞典』(唐沢明監修、造事務所編集、カンゼン刊)は、そんな「社畜」と、社畜を作り出す会社の価値観を反映するワードを集めた「辞典」だ。自分は社畜になっているか、なりかけていないか。会社と自分の関係を鏡のように映し出す。
たとえば、「献身的」という言葉。 「自分を犠牲にして、チームや会社のために尽くすこと」であり、多くの経営者が社員に求める働き方でもある。ただ、これは突き詰めると「自分は会社のコマ」という、社畜に植えつけられた価値観を補強する言葉でもある。
本書では「自分が犠牲になってもみんなが喜んで会社も儲かるからそれがうれしい、そしてこれが正しいんだという感覚を植えつけられていくうちに、人はいつしか社畜になってしまう」としている。
「実力主義」が社畜を量産する
「実力主義」も社畜化と隣り合わせのワードかもしれない。勤続年数や年齢ではなく、仕事の能力や成果で役職や賃金が決まっていく評価手法のことだが、働くモチベーションが高まりやすいというメリットだけでなく、社内がギスギスしやすいデメリットも。
のんびりした性格の人は後輩に抜かれることを恐れ、バリバリ型の社員は「同僚は全員敵」とばかりに働きまくる。いずれにせよ社畜が生まれやすい評価手法ではある。
「“好き”を仕事に」の無責任さ
一方で、望むか望まざるかは別として、会社に生活のほとんどを捧げることになってしまっているいわゆる「社畜」の人が心を乱される言葉が「“好き”を仕事に」である。
本書ではこの言葉を「成功者やキャリアアドバイザーがよく言う無責任なアドバイス」と一刀両断。近年「仕事はつらいもの」ではなく「仕事は楽しいもの」という考え方が広まるにつれて「今の仕事は楽しくないから、自分には向いていないのではないか」と悩む人も増えた。
実際には「“好き”を仕事に」というよりも「働いているうちにその仕事のおもしろさがわかって好きになる」というケースが多いもの。社畜から抜け出したくても「“好き”を仕事に」を真に受けすぎるのも危険である。
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「イニシアチブ」「経営者目線」「アットホーム」。
普段から触れている耳障りのいい言葉のなかに、人を社畜にするような価値観や考え方が潜んでいることは決して少なくない。あまり真に受けずに、「自分はどう働き、どう生きたいか」を指針として、会社に染まりすぎずに働くのが「社畜化」を防ぐ唯一の道かもしれない。
今の自分の働き方や生き方を見直して、本来望んでいた道に戻すために、本書は大いに役立ってくれるはずだ。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。