わずか3年余りでそこまで事業を拡大できるというのは、日本ではなかなか難しそうだ。
「こちらは日本に比べるとサービスが成熟していませんので、ある程度高品質なサービスを提供することで、競合相手と差別化することができます。これは整体サロン業界に限らず、どんな仕事にも共通していることだと思います。料金はその国の競合他社より3倍ほど頂いていますが、ほかにはないサービスですので、現地のお客様に非常にウケがいいんです。やはり高い水準のホスピタリティマインドを持っているのが日本人の強みですからね」(同)
現地の人に、“日本ブランド”が高く評価されていることが、他社より高い料金設定でも大きな利益を出せる結果となっているようだ。
●初期投資費用は日本の半分から3分の1
秋光氏のように日系企業の海外進出に伴い移住する和僑もいれば、身ひとつで海を渡る人の数も増加傾向。上野圭司氏は、日本の大手外食企業に5年勤めた後に独立を目指して退職した。上野氏は、なぜ海外で開業したのだろうか?
「当初は東京で開業する予定でしたが、物件を探している時、知人のタイ人に『僕の国でやったほうがチャンスは多い』と声をかけられました。私自身も日本の外食業界は年々厳しくなっている実感がありましたので、7年前にタイに渡り、物件探しや語学勉強などの準備期間に1年かけてから開業しました。タイなどの発展途上国で事業を始めるうえで、大きなメリットとなるのが初期投資費用の安さです。必要経費はだいたい日本の半分から3分の1で済むので、大変助かりました」
上野氏のように個人で開業を試みる和僑にとっては、確かに費用を安価に抑えられることはうれしいポイントなのだろう。事業を軌道に乗せることに成功した上野氏は現在、日本式カラオケやタイ古式マッサージと、ビジネスを拡大している。
そして、気になるのは華僑大富豪のように、成功により海外でセレブ生活が送れるのかどうかという点。
「私自身がハイソというわけではないですが、日本より東南アジアなどのほうが利益が出やすいのはかなり実感しています。また、東南アジアの国々は基本的に物価水準が日本より低いので、成功すれば日本よりもいい生活ができるかもしれないですね」(上野氏)
もちろん言語や文化、価値観の違いでの苦労は非常に多いことも忘れてはならないが、新たなチャンスをつかむために海を渡る価値は十分にありそうだ。そんな東南アジアドリームをつかんだ和僑たちが、今後世界の経済を支えていくことになれば、従来とは違ったかたちで日本が世界経済をリードしていけるようになるかもしれない。
(文=武松佑季/A4studio)