モバイルコンテンツとして「女性向けの恋愛ゲーム」を提供している株式会社ボルテージが、今ゲーム業界、あるいはモバイルコンテンツ業界を席巻している。浮き沈みの激しいこの業界で、「誓いのキスは突然に」「ダーリンは芸能人」など毎年コンスタントにヒットを飛ばし、業績は右肩上がりをキープ。2011年に東証一部上場を果たし、2014年の年商は100億円の大台にのった。
『「胸キュン」で100億円』(上阪徹/著、KADOKAWA/刊)を読むと、ボルテージの成功には、創業者である津谷祐司氏の特異な経歴が大きく関わっていることがわかる。
津谷氏は東大工学部を卒業後、博報堂に入社、空間プロデューサーとして活動していたが、在職中にUCLA(南カリフォルニア大学ロサンゼルス校)映画学部大学院に留学し、三年半にわたって映画作りについて本格的に学んだ。
帰国後、自作映画の制作が頓挫したのを契機にモバイルゲームの世界に足を踏み入れ、ゲーム制作会社を起業。皮肉にも、アメリカで学んだ映画のストーリー作りがここで花開くことになった。
ターゲットを女性に絞り、恋愛ゲームを展開すると、会社は一気に黒字化。以後の成長につながった。つまり、ボルテージのルーツは「ゲーム」ではなく「映画」なのだ。
■新卒社員が会社を押し上げる原動力に
しかし、もちろんボルテージのゲームを全て津谷氏が作っているわけではない。会社としてヒット作品を安定して出していく「仕組み」を作れたことがボルテージのすごいところなのだ。ここに「新卒社員を伸ばす」会社の秘密がある。実は、実績がない時期のベンチャー企業が優秀な人材を揃えるのはかなり難しい。キャリアとノウハウを持つ中途採用を求めても、なかなかいい人材がやってこないのが現状なのだ。
それならば、新卒をすぐに即戦力に育てるしかない。実際新卒採用では特に女性を中心に優秀な学生が先入観を持つことなく受験してくれたという。もちろん、彼らはみな、ボルテージに入る前はゲーム制作とはかかわりがなかった“素人”だ。それでも、ゲーム制作というクリエイティビティを必要とする仕事で早い段階から戦力として働けるのはなぜなのか。
そのカギこそ、津谷氏が作った「徹底的なマニュアル」だ。制作に必要な「プロット」「女性のマーケティング」などから、もっと根本的な「企画」の立て方や「ロジカルなプレゼンの仕方」までをマニュアル化し、全社員に浸透させたのだ。
このマニュアル化は、会議の仕方や問題解決の流れなど、会社の仕組みにかかわる部分まで徹底されている。言葉で書くと、ありふれたことのようだが、これを徹底的に作成し、かつ社内で運用できている会社は、なかなかない。
よくあるのが「いままでの慣例」通り、先輩が感覚で新入社員を教育する、もしくは優秀な社員のやり方を「なんとなく踏襲している」方法だろう。だが、これは教育する先輩・上司の能力に左右されたり、一部の部署だけで通じるローカルフォーマットになってしまう。これではなかなか新卒全体が活躍できる土壌は育たない。
「会社のマニュアル化が徹底されている」というと「マニュアル人間」などいいイメージがないかもしれない。特にクリエイティブ系だと、新卒の能力を「自由に伸ばす」社風なんて言葉のほうが耳障りがいいだろう。
だが津谷氏はきっぱりと言う、「自由に作っても面白いものはできない」「マニュアルにはまったほうが、自由に作れる」。