ひとりの男が大企業優遇の日本を変える!外務省も後援、世界中の中小製造巻き込みに成功!
「小さなコマなら、旋盤で簡単に作れる。旋盤は製造業ならほとんどが持っており、材料も端材を使えるため、費用面で負担にもならず誰でも参加できる。コマ同士を戦わせる企画は盛り上がると思いました」(緑川氏)
飲み会での何気ない会話からコマ大戦を着想したのだ。緑川氏はすぐに概要をまとめて翌日にはFacebookで公開し、4カ月後に行われる中小企業の展示会で大会を開催すると宣言した。すると、すぐに同業者から参加表明があり、しかも地方の製造業からも手が挙がったのだ。想像以上の反応に、緑川氏は手応えを感じたという。
ミナロは、木型や模型の製造を手がける町工場である。コマ大戦に使用する直径25センチの土俵は、ミナロが手がけているケミカルウッド(人工木材)を使用することにした。それは、金属の土俵ではコマを傷つけるが、ケミカルウッドは柔らかくコマを傷つけない。さらに、コマの回転によってわずかに削られていくので、競技が進むにつれ、コマに予想外の動きを生み出すことになる。それによって競技としての面白さを演出することができるのだ。
さらに緑川氏は知恵を巡らした。中小企業の出展ブースで人を集めたとしても、その時だけの盛り上がりで終わってしまうのは明らかで、もっと大きなムーブメントにするためにマスコミを巻き込むことを画策したのだ。知人の日刊工業新聞の記者に声をかけ、さらにNHKにも声をかけた。どちらも興味を示し、特にNHKの取材班は大会だけでなくコマの製造段階から密着取材をしてくれることになった。
NHKでの放送が決まったことで、スポンサーも集めやすくなった。Facebookでスポンサーを募集すると、すぐに集まった。土俵にスポンサーのロゴを入れ、さながらプロ格闘技のリングの雰囲気となった。
創造性豊かなコマが誕生
12年2月2日、パシフィコ横浜で開催された工業技術見本市「テクニカルショウヨコハマ」のブースの一角で、記念すべき第1回大会が行われた。緑川氏の読み通り、多くの見学者が訪れ、大盛況となった。
オープン参加制としたので、参加した21チームは多彩だった。全国から集まった製造業の中小企業だけでなく、専門学校のチームや日刊工業新聞のチームも参加した。コマも多種多彩で、材質はチタン製もあればレアメタルのモリブデンを使用した高価なコマもあった。形も丸形をはじめ、対戦相手を弾き飛ばす突起がある異形コマ、さらに芯を振り回すように回転する暴れコマなど、もの作りのプロの威信をかけた自信作が集まった。この伝統は今回の世界コマ大戦にも受け継がれ、ジャイロスコープと電子制御を内蔵したコマや、回転することで変形する変身コマなど、既成概念を打ち破るコマが誕生し続けている。「直径2センチ、高さ6センチ以内なら、素材・重さ・形の制限はない」という緑川氏の自由なルール設定が、この創造性を引き出したといえるだろう。