そして06年、孫氏はさらなる大ばくちに打って出る。それが、1兆7500億円という日本史上最高額によるボーダフォンの買収だ。ケータイ業界に 詳しいアナリストは「自社よりも数倍大きな会社を買収するために相当ムチャな借金をした結果、ケータイ事業のインフラである基地局整備にお金を回せなく なった。同社につきまとう『繋がりにくい』というイメージは、この時から始まっているんですよ」と語る。
こうしてなんとかケータイ事業を手に入れたものの、ソフトバンク社内には、ケータイビジネスに理解のある人材など皆無であった。このため孫氏が口 説き落としたのが、当時クアルコム・ジャパンの会長を務めていた松本徹三氏だ。クアルコムとは、ケータイ端末の心臓にあたる半導体のメーカーで、ケータイ 業界を裏でコントロールする陰の主役だ。そのケータイビジネスを知り尽くした松本氏を招くことで、なんとかケータイ事業者としての体面を保つことができた のである。
会社も人も貪欲に飲み込み飽きたら放ったらかし……
このようにソフトバンクは、事業に行き詰まり感が生まれるたび、それを吹き飛ばすような大きな買収をすることによって成長を遂げてきた。その裏で はいつも、新たなビジネスに飛び込むために必要な水先案内人となる人材を手に入れている。それは、成長や変化の速度が速すぎるため、内部で人材を育てる余 裕がないことに起因するが、「孫正義氏の惚れっぽさと飽きっぽさからもきている」と、長年ソフトバンクを追いかけているジャーナリストは語る。
「会社を買収しても、その途端に興味を失ってしまうんです。人材も一緒で、ある目的のために外部の人を口説き落としても、その目的が完了すると急に冷たくなる」
前述の通り、投資事業のためには北尾氏、ケータイ事業の際には松本氏を招き入れているが、それ以外にも、上の相関図にある元民主党議員・島聡氏な ど、さまざまな事業のために政財官学の人間を呼び寄せている。しかし、そうやって迎え入れた人間と道半ばで決裂することが多いのもまた事実なのだ。
事業も人も無節操に取り入れ、しかしその事業が行き詰まると、次へと興味が移る。そうやって会社の形や規模は変わっていくものの、ソフトバンクという企業のそうしたカルチャーだけは、孫氏とともに続いていくのかもしれない。
すでに発売中の「サイゾー」 5月号では、ソフトバンクが乗り出したエネルギー事業をはじめ、あらゆる角度から同社を眺めている。日本において著しく注目を集めるソフトバンクの姿を通して、日本社会の論点がおのずと見えてくるはずだ。
<目次>
(2)ソフトバンクのサービスとプロダクトの戦略
(3)補助金頼みの太陽光ビジネスとSBエナジー
(4)文化人・財界人が語る孫正義の功罪
(5)ソフトバンク社員覆面座談会