本来であれば、この時期は選抜高等学校野球大会(センバツ)、すなわち春の甲子園が開催されているはずだった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて今年は開催が見送られてしまった。そこで、甲子園好きの読者のために、春の甲子園にまつわるエピソードを紹介したい。
プロ野球で活躍する選手の多くは、甲子園で目覚ましいパフォーマンスを見せている。特に、全国の地区予選を勝ち上がった高校同士が対戦する全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)は、ドラフト直前ということもあり、プロ野球関係者の注目度も高い。そんななか、「春の甲子園にしか出場していないが、その後プロに進み、活躍した選手」をピックアップして紹介したい。最初は、読売ジャイアンツ(巨人)の坂本勇人だ。
2016年にはセ・リーグのショートとして史上初となる首位打者を獲得。さらに昨シーズンにはセ・リーグのショートとして史上初となるシーズンMVPを受賞するなど、今や巨人のみならず、日本プロ野球界屈指の名ショートとなった坂本勇人。
そんな坂本がショートのレギュラーに定着したのは、光星学院高校(現・八戸学院光星高校=青森)1年生時の04年秋のこと。その約1年半後の06年春の「センバツ」で、初めて甲子園の土を踏んだ。注目の初戦の相手は、ダース・ローマシュ匡(元北海道日本ハムファイターズ)擁する優勝候補の関西高校(岡山)。このプロ注目の好投手から1回裏にいきなりレフト前へ先制タイムリーヒットを放ったのである。初球の甘いカーブを見逃さない思い切りの良いスイングで、勝負強さを見せつけた。
さらに、5回裏の第3打席ではライト前ヒット、9回裏の第5打席ではショートへの内野安打と、3安打の猛打賞。加えて2盗塁をマークしている。試合は4対6で敗れはしたが、プロ注目の投手からチームが放った6安打中半分が坂本で、大きな存在感を示したのだった。
そんな坂本にとって、甲子園はこの1試合だけだった。春夏連続出場を狙ったその夏の青森県予選の決勝戦で、県内最大のライバルである青森山田の前に4対5と惜敗。坂本自身もこの試合、4打数ノーヒットと大ブレーキで、目前で夏の選手権出場を逃してしまった。それでも、甲子園唯一の試合で3安打を放ち、現在の活躍を象徴していたように見える。
今季は、史上最年少での通算2000本安打達成がかかる大事なシーズンとなる。開幕がいまだ見えず、新記録達成は厳しい状況となっている。果たして、坂本の偉業を見ることはできるのだろうか。