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少年スポーツ、暴力を横行させる指導者の洗脳~さとり世代、なぜ暴力を受け入れやすい?

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「Thinkstock」より
 41歳、7回目の五輪で銀と銅メダル──。ソチ五輪で大きな話題になったスキージャンプ日本代表の“レジェンド”葛西紀明。その快挙は多くの中年男性たちに勇気を与えたが、同時にソチ五輪で注目を浴びたのが10代の「さとり世代」といわれるアスリートの台頭だった。フィギュアスケートの羽生結玄は19歳、スノーボードの平野歩夢が15歳、同じく平岡卓は18歳、スキージャンプの高梨沙羅は17歳といった具合に、多くの10代が世界を舞台に活躍した。

「さとり世代」とは、ゆとり教育を受けた現代の若者の堅実で高望みをせず、欲がない、恋愛にも淡白という気質を表す言葉だが、『少年スポーツ ダメな大人が子供をつぶす!』(永井洋一/朝日新書)では「さとり世代」とスポーツ、そして暴力には危うい関係があると指摘する。

 ここ最近、スポーツ界を舞台にした暴力事件は後を絶たない。昨年には女子柔道強化選手が監督からの暴力を告発した件や、大阪市の高校で起こった生徒の自殺の背景にバスケットボール部顧問の暴力があったことが判明し、大きな社会問題となった。

 本書によると、スポーツ界では勝利至上主義、そのための体罰やイジメがはびこり、「指導者が肉体的、精神的苦痛を与えて選手をマインドコントロールしようとする指導法は、日本のスポーツでは日常化している」という。

 その理由は、スポーツが人間の攻撃的心理を刺激し「誰しもが攻撃的行動を取りやすくなってしまう」からだ。さらに暴力の原因はもちろん指導者側にあるが、問題を解決するためには「それを受忍している選手の側を分析することも必要」だという。暴力や暴言による指導はナンセンスだが、一方で「指導を受ける少年たちの心理や周辺の環境にも、それらを受け入れてしまう素地がある」というわけだ。特に、こうした素地は「さとり世代」に顕著だという。

●冷静に分析した上で、暴力も受忍する「さとり世代」

「さとり世代」は現状を受忍する傾向が高く、欲がない。さらに同調圧力などもあり、指導者にとっては扱いやすく、使い勝手のいい選手たちが多いという。さらに、この世代は現状肯定の心理から、安心できるところに定住したいと思い、提示された条件を素直に受忍してしまう傾向があるというのだ。その受忍は、暴力も例外ではない。

「たとえ、それが暴力やしごきであっても、それと引き換えに一定の安心が得られるのなら、それは現実を醒めた目で見つめ、冷静に状況を計算する少年たちにとって『のめる条件』」であるとして「十分に『覚悟の上』で指導者の暴力を受け入れていくこと」になるという。

 なんとも恐ろしい、アスリートの心理。そして、それを操る指導者と、暴力と「さとり世代」の相関関係──。

 しかも、スポーツ界から暴力を一掃するのは極めて困難なようだ。著者によれば、「日本のスポーツ界の環境、制度そのものを変え」なければ問題は決して解決しないという。

 世界で活躍する10代のアスリートたち。私たち観衆も単にはしゃぐだけでなく、その陰で行われているかもしれないスポーツ界と体罰の関係を、注視していく必要があるだろう。
(文=編集部)

『少年スポーツ ダメな大人が子供をつぶす!』


幼少のころから「勝ち組」に入ることを強いられる子供たちは、自ら決断することを恐れ、マシン化していく。なぜ日本のスポーツ界には不祥事が絶えないのか?「さわやかで健全なスポーツ少年」は幻想なのか?育成を忘れ、目先の結果を追求する少年スポーツの現場に警鐘を鳴らす

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