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クールジャパン、なぜ国の主導だと失敗?無駄で誤った予算の使い方と、戦略の欠如

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福田淳氏(左)と赤田祐一氏(右)

 経済産業省は、「クールジャパン」(アニメやゲーム、ファッションなどの日本文化)の世界市場を拡大し、2020年の海外売上高を最大17兆円と、2010年の約4倍に増やす目標を掲げた。このうち、ファッションで4兆円、食で6兆円、漫画やアニメなどのコンテンツで3兆円の獲得を目指すとしている。

 クールジャパン政策は10年、民主党の鳩山政権時に始動し、菅政権、野田政権、自民党への政権交代後の安倍政権へと引き継がれている。国が300億円を出資してクールジャパン機構(海外需要開拓支援機構)を設立し、今年3月には民間企業から85億円の出資を募るなど、官民共同で海外へ日本の文化を売り込む事業を加速させている。これだけの巨額投資をするのは、それだけ大きな市場を海外に見込んでいるからである。

 そこで今回は、『磯野家の謎』(東京サザエさん学会/彩図社)、『バトル・ロワイアル』(高見広春/太田出版)などを手がけた編集者・赤田祐一氏と、スマートフォン向けコンテンツを提供するソニー・デジタルエンタテインメント社長・福田淳氏の2人に、日本政府が推進しようとしているクールジャパンについて語ってもらった。

福田淳氏(以下、福田) 最近よく、クールジャパンなどといわれますが、米国ロサンゼルスの友達に「自分のことクールって言うのがまずクールじゃないけど、それって何?」と笑われました。

赤田祐一氏(以下、赤田) 確かに、ちょっとおかしいですね。

福田 現代アーティストの村上隆さんが編集者・SF研究家の故大伴昌司さんのことをニューヨークで05年4~7月に開催された「リトルボーイ展」で紹介したあたりから、ジャパンクールという言葉がきかれるようになりました。定義は別にして、クールジャパンについて、どういうイメージをお持ちですか?

赤田 言葉自体は、以前に総合雑誌「Voice」(PHP研究所)に書かれていたので知っていましたが、それは3~4年前のことなので、すっかり忘れていました。今はどんな使われ方をしているのだろうかと、気になっていたところです。

●サブカルチャーは、市民レベルからわき起こるものが面白い

福田 経済産業省が主導する「クールジャパン推進会議」(第2回)の議事録(13年4月3日)を読んで驚きました。ある委員の方が、「台湾のお客様をお招きした際に、おもてなしのバーベキューをしたり、金魚すくいをしたりして喜ばれた。これこそがおもてなしの心、つまりクールジャパンなんだ」と話していたのですが、本質的なところが抜けていると感じました。

赤田 なんだか文化祭っぽいですよね。

福田 その国特有の文化が、各国にいろいろありますよね。日本にも温水洗浄便座やウスターソースなど、海外に普及している商品がいっぱいあります。エンターテインメントの分野でも、アニメやコミック、アートなどは世界に広まっています。

 それを国がクールジャパンとして普及促進しようとすると、「英語字幕の補助金を出します」などと実務的な話になってしまいます。「それらのコンテンツを、どうしたら外貨を稼ぐものにできるのか」「今それができていないのは、どうしてなんだろう」という話にまでならないのです。

赤田 サブカルチャーなどは、お上(国)から出てくるものではなくて、やはり下(市民レベル)からわき上がってくるようなものが面白いわけで、お上主導で進めるのは無理だと思います。

福田 そうですね。もっと戦略的でわかりやすく、産業としてクールジャパンを考える必要があります。例えば、ヨーロッパで日本のアニメがウケるのは、80年代にテレビアニメ『マジンガーZ』(日本ではフジテレビ系)がヨーロッパ各国で放送されていたことが下地としてあるからだという意見もあります。

赤田 スペインでは、1978年ぐらいから日本のアニメが放映されていました。

福田 日本のアニメを幼児期に体験した海外の人が大人になった時に、「村上隆さんが面白い」とか、「大伴昌司さんがすごい」と言うようになるのでしょうね。大伴さんが持っていたようなジャーナリズムの視点や哲学こそ、新しい日本の文化として輸出できれば面白いと思います。例えば、フランスで開催されている総合的な日本文化博覧会「ジャパン・エキスポ」で、もっと日本が持っている大人のカルチャーを世界中に知らしめることができれば良いと思います。

●文化を戦略的に広めていくことが重要

赤田 ものすごく乱暴にいうと、かつての日本文学に代わるものが漫画ではないでしょうか。アメリカに漫画の芥川賞に相当するようなウィル・アイズナー漫画業界賞という賞があるのですが、08年に手塚治虫さんの『アポロの歌』(「週刊少年キング」で連載)がベスト企画賞(Best Archival Collection/Project—Comic Books)を受賞しました。そうしたら、そのハードカバーが2冊出版されて、かなり人気が出ました。古い作品でも、海外の本当の漫画マニアの人たちが今の目で見て、「これはすごい」と評価するのです。そういうことが何十年と積み重なって、ある種の地層みたいなものができて、そこから変わっていくのかな、という気はします。

福田 日本でも、クールジャパンのコンテンツ市場における海外売上高を10年の4兆円から20年までに17兆円にしようと鳩山内閣が提唱しましたが、発表された10年当時、実はコンテンツの海外輸出市場は1兆円もなかった。それを別分野も入れて無理やり水増ししようとするから、変な話になるんですよ。経済産業省が「クールジャパンになるものだったら、個々に企画を審査して予算を出します」と言いだして、何をするのかと思えば、シンガポールでクールジャパン展みたいなものを開催して、“Jアート”(美術展)や“Jファッションショー”などの費用として15億円拠出したことが明らかになり、Twitter上でも「ひどい」などと話題になりました。ミヅマアートギャラリーの三潴末雄さんも「こんなもん、日本の文化の礎になるか」とつぶやいてました。

赤田 もったいない予算の使い方ですよね。お金のかけどころを完全に間違っている感じです。以前、「ガロ」(青林堂)というちょっとカルトな漫画雑誌がありましたが、そのバックナンバーがインターネットの取引で、10ドルくらいで香港をはじめアジアを中心として、飛ぶように売れるらしいです。しかも今、漫画家・辰巳ヨシヒロの作品が北米で復刻されているのですが、それも「ガロ」マニアの個人が手がけていているらしいです。そういうところに予算を割いてくれればいいですね。

 何がクールジャパンかという定義も大事ですが、伝え方も重要ですよね。

福田 本当にポテンシャルのある面白いものや人をいかに紹介していくか、「これが日本の底力だ」とアピールしていくかが重要ですよね。

赤田 例えば、同じ食を伝えるにしても、今さら寿司じゃないですよね。先日、取材で京都に行った際に、出町柳界隈で時折、無農薬野菜を販売する八百屋さんが出店しているのを見ました。そういう「ファーマーズマーケット」が今、サブカルチャーになっているんです。

福田 野菜がサブカルですか。

赤田 そうなんです。減農薬野菜や無農薬がサブカル扱いです。その視点が面白いと思いました。

福田 なるほど。食といえば、先日、シリコンバレーで飲料メーカー・伊藤園のお茶を普及させた営業マンがいるという記事を読みました。最初はまったく売れなくて、大手企業の購買担当部門へ「無料でいいから、お茶を置いてください」とお願いして回ったそうです。そうしたらエグゼクティブたちが飲んで、「ジャパニーズティーはカロリーゼロだぜ」などと、ブログで宣伝してくれたので、それがきっかけになって、シリコンバレー中に伊藤園のお茶が広まったらしいです。そんなふうにクールジャパンも売り出せたら、面白くなりますね。
(構成=編集部)