現在、日本では人工透析を受けている患者さんは30万人以上にも上り、その数は人口比から見て諸外国に比べてあまりにも多い。まさに「人工透析天国」である。ただし、これは医者側から見た話で、患者さん側から見たらある意味で「地獄」である。
なぜ、こんなことになっているのだろうか。順を追って説明してみたい。
まずは、糖尿病と診断される患者さんが年々増えているからである。糖尿病になると、インスリンを分泌するすい臓のベータ細胞が死んでいき、インスリンの量が足りなくなるため腎不全を起こす。インスリンの分泌量を適正に保つことは非常に大事で、これは食生活や適度の運動によって行っていくしかない。
しかし、糖尿病が進行して腎不全が慢性化すると、最終的に人工透析を受けなければならなくなる。そうしないと死んでしまうからだ。
糖尿病がやっかいなのは、初期には自覚症状がないこと。目で見て尿に異常があるかどうかは、一般の方にはわからない。だから、10年以上にわたって無症状で経過した後に診断されることが多い。
慢性腎不全になると、体内の老廃物を尿中に排泄できなくなり、体中にむくみが現れたり、血圧が高くなったり、貧血を起こしたりする。約1割の方は自身の免疫力の回復で助かるが、放置しておくと尿毒症を起こして死に至る。昔はこういうケースが多かった。
それが現在では人工血液透析で生き延びられるようになったので、人工透析は医学の進歩の典型的な例であり、多くの人の命を救っている。
しかしその一方で、人工透析は患者さんにとっては大きな負担で、1日おきに病院に行かなければならない。さらに、透析には4〜5時間がかかる。こうなると、社会生活はまともにできなくなるので、仕事はやめざるを得なくなる。だから、若い人が腎不全で透析が必要になった場合は、本当にかわいそうである。現代医学では、どうしても長生きできないであろうと思われる。
もちろん、腎臓移植手術で治すという方法もある。これが末期腎不全の唯一の根本治療といえるものだが、順番待ちになっている。現在、約1万2000人の方が献腎移植の登録をしているというが、提供される腎臓は少なく、希望がかなえられる人は年間1300人ほどという。つまり、慢性腎不全の方の多くが人工透析によって命を保っているというわけだ。
「ドル箱」
しかし、この人工透析患者さんの激増には、もうひとつの大きな理由がある。それは、人工透析患者が病院にとっては「ドル箱」だからだ。診療報酬の改定は2年ごとに行われ、病気の点数は変わるが、人工透析の点数はかなり高い。病院にとっては、点数の高い患者が多ければ多いほど儲かるのである。
しかも、透析患者は、透析をやめれば死に至るので“永遠のリピーター”である。治らないのだから、病院にとっては永遠にお金を落としてくれるお客さまというわけだ。
そのため、本当に人工透析が必要かどうかを吟味せずに、透析患者として認定してしまうケースが後を絶たない。これが、人工透析患者30万人以上の本当の原因といっても過言ではないのだ。ある都内の病院の医師がこう語る。
「うちの病院では、透析患者さんのことを“定期預金”と呼んでいます。理事長は『透析患者は“固定収入”だから、もっと増やせ』と医者に指示しています」
そもそも現在の人工透析の基準自体が曖昧だから、こういうことが起こる。人工透析が必要かどうかは、腎機能、臨床症状、日常生活の障害の程度を点数化して、合計60点以上なら人工透析が必要とされる。
しかし、日常生活の障害の程度というのは、医者のさじ加減でどのようにも評価できる。だから、人工透析をしなくても日常生活の指導で腎不全を予防できる患者さんに対しても、人工透析を行ってしまうのだ。
必要もないのに、人工透析患者にされてしまった患者さんは、はたしてどれだけいるだろうか。
こうした事態を防ぐには、人工透析が必要と診断されたら、必ず「セカンドオピニオン」を受けることだろう。医者の言うことを鵜呑みにしてはいけない。
(文=富家孝/医師、ラ・クイリマ代表取締役)