納税額をごまかそうものなら、とんでもない情報収集力と調査力を駆使して取り締まる――。
映画『マルサの女』(東宝)ではないが、税務署に対して、そんな印象を持つ人も多いのではないだろうか。しかし、元東京国税局国税調査官の税理士・松嶋洋氏は「税務署は、意外といい加減な組織だ」と語る。
そのいい加減さゆえ、納税者が不当な税金を徴収されるなど、損をすることもあるという。知られざる税務署の実態について、松嶋氏に話を聞いた。
「これは自分の仕事ではない」と思いながら仕事をする税務署員
–税務署がいい加減なため、納税者が損をすることがある。これは、具体的にはどのような事例があるのでしょうか。
松嶋洋氏(以下、松嶋) 納税者にとって身近な例が、税務署職員による「誤指導」ですね。確定申告の会場で、職員の指示通りに書類に記入して提出したのに、後になって申告漏れが発覚して追徴課税される、というパターンはよくあります。
–最初は「80万円の所得税」だったのが、後になって「やっぱり100万円払え」と言われるようなケースですね。庶民にとっては、数万円でも大金です。なぜ、このようなミスが起こってしまうのでしょうか。
松嶋 まず、税務署という組織自体に原因があります。税務署は、法人税、所得税、資産など、税目によって部署が分割された縦割りの組織になっています。しかし、確定申告の時期になると、多くの納税者が申告会場に押し寄せるため、所得税の担当だけでは対応できません。
そこで、法人担当の職員なども相談員として駆り出されるのですが、縦割りの組織ゆえに管轄外の業務には無関心ですし、そもそもほかの税目に関しては知識がありません。そのため、他部署の仕事を手伝う際は、「これは自分の仕事ではない」と思いながら仕事をしている人が少なくありません。
しかも、相談窓口だけでも1日に何十人もの話を聞かなくてはならないため、業務自体もかなりきつい。そのような事情もあり、納税者への対応がつい適当になってしまうこともあるのです。
納税者の対応次第で課税額が変わることも
–納税者とすれば、税務署職員は「税のプロ」であり、納税者の不正を見逃さないように、全員が目を光らせているイメージがあります。
松嶋 全然そんなことはありません。確定申告の会場でも「早く帰りたい」と思いながら仕事している人が多くいます。反対に、税務調査の段階になると、とたんに職員のモチベーションが高くなり、厳しい調査を行います。税務署は安易な節税や不正を嫌うため、それなりに稼いでいる人に対しては、重箱の隅をつつくようにしつこく追及する職員もいます。