–お金のない人からすれば、稼いでいる人には、しっかり払うべき税金を払ってほしいですが。
松嶋 しかし、税金というのはグレーな部分が多く、法律的に間違いかどうか、不正に該当するかどうか、これらのボーダーラインが非常に曖昧なのです。そのため、納税者の出方次第で課税額が変わることも少なくありません。
例えば、年収が数千万円のような個人事業主が法人をつくり、その法人に経費を支払うなどして節税するケースがあります。これは大抵“シロ”で通ります。しかし、税務署としては「あわよくば、税を徴収したい」と思っているので、税務調査の際に「こういった行為は認められない」などと言って、プレッシャーをかける事例もたくさんあります。
交渉の方法も職員によってさまざまで、「半値にまけてやるから従いなさい」ということもあれば、よく確認もしないのに「絶対に不正しているだろ!」と暴言を吐くなどしてトラブルになる職員もいます。それこそ、税務署に免疫のない人は怖くなり、指導に応じてしまうでしょう。一方、しつこくゴネる人に対しては、職員も相手をするのが面倒なので、あっさりと引き下がることもあります。
–税務署への対応の仕方を知っている人が得をする、という仕組みなのですね。
松嶋 その通りです。さらに、国税OBで税務署内に顔が利く人は、限りなく“クロ”に近いグレーであっても、所轄の担当者の上司などに連絡して調査の目を緩めてもらうことがあります。同じ税なのに、人によって納税額が異なってしまうのは、不公平としか言いようがありません。
–ただ、そのようなケースは、節税する必要があるほど資金がある人や事業主に限った話で、それ以外の納税者には関係なさそうですが。
松嶋 そんなことはありません。課税に対する曖昧さは、確定申告の際にも影響してきます。例えば、医療費の項目などは、どこまでが医療費と判断されるのか税務署職員もよくわかっていないため、思わぬ費用が医療費として控除されてしまうことがあります。
仮に窓口で指摘されても、なぜ通らないのかの理由をしつこく尋ねれば、担当職員が「それなら、お考えの通り申告してください。あとで税務署から連絡するかも知れません」などと、見て見ぬふりをすることがあるので、すぐには引き下がらないほうがいいです。後で連絡するかも、といっても、そういうことは多くはないですね。
税務調査にしろ、申告会場の窓口にしろ、課税の基準というのは、納税者が思っている以上に曖昧なのです。