「格安SIM」「格安スマホ」と呼ばれるMVNO(仮想移動体通信事業者)だが、安さはいき着くところまできている。主要なMVNOの料金プランを見ていくと、その相場はデータ通信のみで、おおむね3GB、900円台。大手キャリアの6分の1程度まで料金が下がっている。ブームを受け参入してみたが、大手をのぞけば「あまり儲からない」(MVNO関係者)とのため息も聞こえてくる。単純な料金での差別化は、難しくなりつつあるのだ。
こうしたなか、MVNOのなかには新たな“売り”をつくろうとする動きが活発になっている。ひとつの傾向として挙げられるのが、「特定の通信を無料にする」ということだ。たとえば、「FREETEL SIM」を展開するプラスワン・マーケティングは、LINEやWeChatといったメッセージサービスの通信を、一部カウントしないようにする施策を3月に発表している。
同様に、ケーブルテレビ会社ジュピターテレコムが運営する「J:COM」も、自社の動画サービスだけは通信量に含めないことを売りにする。MVNO最大手のNTTコミュニケーションズも、同社のIP電話サービス「050 Plus」やストレージサービス「マイポケット」などでデータ量を消費しない「カウントフリー」を実施中だ。
LINEの参入
こうした取り組みを拡大したのが、あのLINEだ。同社は夏に、ドコモのMVNOとして「LINE MOBILE」を開始する。料金は月額500円から。LINE内でやり取りされるメッセージ、画像、動画、通話などが、無料通信の対象だ。追加料金を払うことでFacebookやTwitterの通信がカウントされない、「Unlimited Commnication」というサービスも用意しているという。
さらに、音楽ストリーミングサービスである「LINE MUSIC」まで通信量に含めないコースも提供する予定だという。ストリーミングサービスは、膨大な楽曲を定額料金で聞き放題になる半面、モバイルネットワークで利用すると、通信量がかさんでしまうというデメリットがあった。使いすぎて毎月の上限に達してしまうと、追加料金がかかってしまう。こうした使い勝手の悪さを取り払うために、LINE自らがMVNOとして名乗りを上げたというわけだ。
ただし、通信量をカウントしないサービスは、手放しで喜べるものではない点にも注意が必要だ。どのサービスを利用しているのかを見分けるため、交換機側で通信を峻別する必要がある。そのためユーザーから見れば、通信の内容が事業者に把握されてしまうことにもつながる。こうした仕組みはDPI(ディープ・パケット・インスペクション)と呼ばれているが、利用にはユーザーの同意が必要になる。特定の通信をカウントから除外するためだけに、こうした技術を使っていいのかという点も今後議論を呼ぶかもしれない。
とはいえ、事実としてこうしたサービスはMVNOを中心に広がりを見せている。LINEのように自社で強力なサービス、コンテンツを持っている会社が提供したときのインパクトは、決して小さくないだろう。海外でも、発展途上国を中心に特定のアプリだけを通信無料にする例はあり、日本でも徐々に受け入れられるようになってくる可能性はある。
格安競争から抜け出し
格安志向から、抜け出そうとするMVNOも出てきた。KDDIの関連会社でWiMAX、WiMAX 2+などのサービスを行うUQコミュニケーションズは、同社のMVNO事業であるUQ mobileで「ぴったりプラン」という新料金プランを発表した。料金は2980円。ここに、30分分の無料通話と1GBのデータ容量が含まれる。3980円のプランでは、無料通話が60分に、データ容量が3GBにアップする。
UQ mobileの新料金プランがおもしろいのは、これに加えて端末を割り引く「マンスリー割」があることだ。適用になる端末は、LGエレクトロニクスの「LG G3 Beat」、京セラの「KC-01」、富士通の「arrows M02」。UQ mobile自身が販売するLG G3 BeatやKC-01だけでなく、SIMフリースマホとしてメーカーが販売するarrows M02まで含まれている。UQコミュニケーションズでは、今後割引対象となるSIMフリー端末も増やしていくという。
MVNOは毎月の料金が安い一方で、端末は割引なしのいわゆる「本体価格」をそのまま払わなければならなかった。いくら毎月の通信料が安いとはいえ、大手キャリアが実質価格で販売するハイエンドモデルと比べると、どうしても割高に見えてしまう。UQ mobileは料金こそ一般的なMVNOよりは高いが、そのぶん端末を安く手に入れることができる。割賦を利用すれば初期費用もかからないため、気軽に利用できるMVNOになりそうだ。
単純な料金比較では目には見えにくい安心感
実は、同様のプランで実績を出しているキャリアもある。ソフトバンクのサブブランドであるワイモバイルだ。ワイモバイルは大手キャリアと同様、自社でも端末を取り扱っている一方で、家電量販店などに行くとSIMフリー端末とセットで回線を販売している様子も目にする。MVNOの台頭に伴い、SIMフリーのスマホが急増した。ワイモバイルは大手キャリアでありながら、このトレンドをうまく取り込み、契約増につなげているというわけだ。
もちろん、ワイモバイルは知名度が高くショップ網が充実していることも、契約者獲得にはプラスに働いている。UQ mobileについても、WiMAXルーターで家電量販店に販路を広げてきた経緯がある。これのキャリアが一般的なMVNOより少々高めでも受け入られるのは、単純な料金比較では目には見えにくい安心感があるということだ。
MVNOのなかには、楽天モバイルやU-mobile、もしもシークスのように、自社のショップを拡大しているところもある。販路や知名度が追いついてくれば、こうしたMVNOも今より高い料金プランを打ち出しやすくなるだろう。単なる価格だけの競争から脱却できれば、MVNOは今より広い層に普及するようになるかもしれない。
(文=石野純也/ケータイジャーナリスト)