スターバックスのアイスコーヒーなどは、氷の量が多すぎる――。
先日、このような理由でアメリカ・シカゴの女性がスタバを相手に訴訟を起こしたことが報じられ、大きな話題となった。
この女性は、スタバの冷たい飲み物について、カップの容量でサイズを表示しているが、実際に提供される分量は表示より少なく、それが「顧客を欺く行為」として、500万ドル(約5億3000万円)の損害賠償を求めているという。
女性の主張によると、特大の「ベンティ」サイズの場合、24オンス(約710ミリリットル)だが、実際に客が受け取る飲み物は14オンス(約414ミリリットル)で残りは氷だという。
報道によると、スタバ側は原告の主張を認識しており、「冷たい飲み物に氷が不可欠な要素だということは顧客も理解している。出来上がりに満足していただけない場合は喜んでつくり直す」とコメントしている。
これはアメリカで起きた訴訟であり、一概に言うことはできないが、仮にこのような訴訟が日本で起きた場合、判決の行方はどうなるのか。また、飲食店がドリンクの中身を実質的に少なく提供していることについて、問題点はないのだろうか。
弁護士法人ALG&Associates執行役・弁護士の山岸純氏は、以下のように語る。
マクドナルドは「コーヒーで客がやけど」で64万ドルの賠償支払い
「こういう裁判がアメリカで起きると、『また、アメリカでおバカな裁判が始まった』と考える方が多いようですが、実はそうでもないのが、アメリカという国の裁判の実情です。
こういったニュースで思い出されるのが、『マクドナルド・コーヒー裁判事件』です。これは、アメリカのマクドナルドのドライブスルーでコーヒーを買った客が自分の膝にコーヒーをこぼし、『やけどを負った』として、マクドナルドに対して損害賠償を求めたという裁判で、合計64万ドル(現在のレートで約6960万円)の賠償金の支払いが命じられたとされています。
この裁判では、最終的に、やけどの治療費や介護費用、後遺症の慰謝料などとして16万ドル、『懲罰的賠償』として48万ドルが認められたわけですが、この懲罰的賠償というのが、アメリカの裁判における“クセモノ”です。
懲罰的賠償とは、裁判で、交通事故などの不法行為を原因とする損害賠償の額を議論する際、加害者の行為が特に非難すべきであるという場合に、『実損』の賠償金以外に『制裁』の意味の賠償金を支払わせ、将来的に同じような行為を起こさないようにすることを目的として支払いを命じるものです。
『マクドナルド・コーヒー裁判事件』では、マクドナルドが『コーヒーが熱すぎる』という苦情が数百件もあったにもかかわらず、裁判では『年間の売り上げからすれば、この苦情はゼロに等しい』などとうそぶいたり、苦情を真摯に受け止めてコーヒーカップに『熱いです』といった注意書きをしなかったことなどが『大企業のおごり』ととらえられて制裁を科された、というのが真相のようです。
今回のスターバックスの裁判での500万ドルという金額が懲罰的賠償の請求分も含んでいるものなのかどうかはわかりませんが、同じような考えなのかもしれません」(山岸氏)
食えない弁護士が多い、アメリカの裁判事情
また、こういった裁判の背景について、山岸氏は「アメリカの裁判の実情というより、アメリカの食えない弁護士の実情の影響のほうが大きいともいわれています」と語る。
「アメリカでは、『石を投げれば弁護士に当たる』といったジョークが通じるほど弁護士の数が多いのですが、約130万人もいれば、当然食えない弁護士も多く存在します(なお、アメリカでは弁護士の取り扱う業務がとても細分化されており、日本でいう司法書士的な業務を行う者も弁護士に含まれるため、一概にはいえません)。
そのため、平地に乱を起こすように弁護士が事件を焚き付ける、ということも往々にしてあるわけです。例えば、かつて、トヨタ自動車のプリウスに欠陥が発見された時、多くの弁護士が目の色を変えて『プリウスの所有者は、欠陥によって財産権を侵害されたはずだ。それに、精神的な脅威を受けたはずだから、トヨタに賠償請求をしよう!』といったプロパガンダを始めたことがあります。
よく『アメリカは訴訟社会である』と言われますが、よくよく追求すると、『多すぎる弁護士を食わせるために事件がつくられている』といった考え方も出てくるわけです」(同)
氷多すぎのスタバは差額を返金すべき?
では、スタバなどの飲食店がドリンクの量を氷で“水増し”している点については、どうなのだろうか。
「もし、スタバがわざと氷の量を多くしており、『客はコーヒーが24オンス入っていると思ってお金を払ったにもかかわらず、実際は14オンスしか入っていなかった。氷の10オンス分のお金まで払う気はなかった』となった場合、10オンス分の料金は『錯誤』として、スタバは返金しなければならなくなるかもしれません。
同じような話に『ビールの泡』の例があります。かつて、イギリスのパブが『ビールの泡の量が多すぎる。この分の金を返せ』という裁判を起こされて敗訴したことがあります。信じられない話ですが、後日、ビールの泡の量に関する法律が制定されたようです。
しかし、アイスコーヒーに氷が入っているのは当然であり、客側もある程度想定できる範囲ではないでしょうか。もし、日本で『氷分のお金を返せ』といった裁判が起こされても、『店としては、コーヒーと氷を一体の飲料として●●ミリリットルで販売しており、客において、アイスコーヒーに一定程度の氷が入っていることは想定できるものであるから、なんら不都合はない』といった判決になるのがオチです。
マクドナルドの新商品のハンバーガーは、いつも、とてもおいしそうな映像がCMで流れますが、実際に買ってみると、ペシャンとつぶれた、いつものハンバーガーが出てくる。それと、あまり変わらない話です」(同)
実際、「じゃあ、氷の分は返金しましょう」ということにはならなそうだが、この裁判でどんな判決が出るか、注目したいところだ。
(文=編集部、協力=山岸純/弁護士法人ALG&Associates執行役・弁護士)