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清水和夫「21世紀の自動車大航海」

さすがジャガー、SUVに秘密兵器投入…夢レベルの乗り心地、すべてが最高

文=清水和夫/モータージャーナリスト
さすがジャガー、SUVに秘密兵器投入…夢レベルの乗り心地、すべてが最高の画像1ジャガー F-PACE(「ジャガー HP」より)

 世界のプレミアムブランドがこぞって開発を進めるSUV(スポーツ用多目的車)に、新星が現れた。英ジャガーのF-PACE(ペース)だ。各社の競争が激化する市場で、ジャガーはどう闘い、皇室御用達のレンジローバーを有するランドローバーとはどう差別化を図っていくのか。先日行われた国際試乗会の模様をレポートしつつ、Fペースの未来を占ってみたい。

 Fペースの国際試乗会は、6つの国に分割された旧ユーゴスラビアのモンテネグロで開催された。私は初めて訪れる国なので、この国の人たちの気質が気になった。事前に海外の観光情報サイト「地球の歩き方」を見ると、次のように書いてあった。

「基本はのんびり屋さんが多く、組織的ではないので、ゆっくりと過ごす人が多いが、男性は見栄っ張りで良いクルマに乗りたがる。だがマナーは最悪で、対向車が来ても無理な追い越しは当たり前で死亡事故が多い」

「これはヤバイ」と思い、いつも以上に安全運転を心がけるつもりで試乗会に臨んだ。

 Fペースは、マーケティング上は独BMWのX3、独ダイムラーのメルセデス・ベンツGLC、独アウディのQ5に加えて、トヨタ自動車のレクサスNXなどの日本車をベンチマークとしている。開発ではダイナミクスでX3、クオリティではアウディがターゲットだが、製造品質では常に日本のレクサスを参考にしているという。

ジャガーが秘密兵器を投入

 今後、プレミアムSUV市場は黙っていても急成長すると、ジャガーのマーケティング部門は読んでいる。2020年以降は成長が緩やかになるが、この市場はジャガーの成長に欠かせないセグメントだと考えている。独ポルシェがカイエンで大成功したように、ジャガーもFペースで念願の20万台メーカーになれるかもしれない。

 つまり、ジャガーにとってFペースはプレミアムSUVの激戦区に送り込む秘密兵器なのだ。チーフエンジニアが「最高の技術で開発した」と熱く語るのも当然のことだろう。

 ベースとなるプラットフォームは、セダンのXEとXFと同じ構造のアルミボディ。BMWのX3よりもすこし長いが、実際のサイズはX3に近い。もう少し詳しく説明すると、Bピラー(前部座席と後部座席の間の柱)より前端部はXFと同じで、重量比80%がアルミでつくられている。80個強のパーツは新規に設計しているので、XFやXEのプラットフォームを流用したと考えるのは正しくない。

 また、アルミボディがジャガーのコアテクノロジーとなった今、リサイクルアルミの使用率も高まっている。1年間でリサイクルするジャガーのアルミの総量はエッフェル塔4本分に匹敵するという。つまり、このFペースにもリサイクルのアルミが使われている。ホワイトボディ(塗装前のボディ)の重さはわずか298キログラムである。ジャガーのアルミの多くが再生可能エネルギーの電力でつくられている点も見逃せないファクトだ。自動車の環境問題というと燃費ばかりが話題となるが、生産から廃棄までのトータルの環境負荷(ライフサイクルアセスメント/LCA)を評価することが重要であり、その意味でジャガーは環境団体から表彰されても不思議ではないのである。

快適な乗り心地

 さて、Fペースには18インチから22インチまでのタイヤが用意されているが、特別なオプションで265/40/R22 を用意した。これはデザイナーからの強い要望であったが、ダイナミクスで優位に立とうと考えていた開発チームもこのサイズを受け入れた。どのインチでもタイヤの直径は765ミリ前後と大きく、このサイズが格納できるホイールハウスと、サスペンションストロークがFペースには必要だった。そのためにフロントのシャシーとボディはFペース専用設計となった。サスペンションはXE/XFでお馴染みの、フロントがダブルウィッシュボーン式、リヤがインテグラルリンク式マルチリンク。リヤアクスルとサスペンションには重量をたっぷりと与え、上質な乗り味を可能とした。

 ダンパーは高価だが、複筒式よりも応答性に優れているド・カルボン式を全車に標準で採用する。このサスペンションは走行状況に応じて可変し、ボディの動きは毎秒100回、ホイールのストロークは毎秒500回の速さで可変する。さらに速度に応じて可変するから、町中からサーキットまで理想的なダイナミクス(力強さ)とライドコンフォート(乗り心地)が得られるのである。

 試乗会では、V6ターボエンジンと2リッター4気筒ディーゼルを試した。AWD(全輪駆動)システムはスポーツカーのFタイプに見習い、リヤ100から前後50対50の電子制御可変システムを持つ。つまり、普段はFRスポーツカーのように素直なキャラクターで走れるが、悪路ではレンジローバースポーツに近い走破性を発揮する。エアサスペンションがなくても車高は213mmも確保されているので、悪路の走破性は悪くなかった。

 ワインディング(カーブが連続する道)でのハンドリングはゴキゲンだった。ポルシェのマカンGTSのハンドリングに痺れたことがあったが、FペースのガソリンV6ターボは十分それに対抗できるスポーツ性を持っている。22インチタイヤもステアリングの応答性に貢献。ダンピング(振動吸収)が良いので、ボディは常にフラットライド(車体の揺れが少ない)であった。 さすがジャガーだと感心していると、無理な追い越しの対向車が迫ってくるではないか。できるだけ自車の車線で避けたが、Fペースのステアリングの応答性が良いので助かったと思った。

 ディーゼルは20インチのタイヤで試した。これでも十分にスポーティであるし、荒れた路面ではタイヤのハイト(高さ)が高い20インチの50扁平のほうが路面を包み込む感じが得られる。私の用途ではこのディーゼルのFペースが気に入った。8速トルコンATとのマッチングもいいので、発進もスムースだ。

 Fペース、宿泊したアマンリゾート、そしてジャガーチームの温かいホスピタリティと笑顔で、長旅の疲れをすっかりと忘れることができた。まるで夢の世界にいるような試乗会に、大満足で帰国した。

 復路の機内に命よりも大切な米アップル・MacのPCを忘れるというオマケがついてきたのは想定外だった。
(文=清水和夫/モータージャーナリスト)

清水和夫

清水和夫

1954年生まれ東京出身 武蔵工業大学電子通信工学科卒。1972年にモータースポーツを始め卒業後プロのレースドライバーとなる。その後、モータージャーナリストとして活動を始め、自動車の運動理論や安全技術を中心に多方面のメディアで執筆・講演活動を行う。ITS、燃料電池車、環境問題に留まらず各専門分野に整合した総合的に国際産業自動車産業論を論じるようになる。TV番組のコメンテーターやシンポジウムのモデレーターとして多数の出演経験を持つ。2009年はNEDOの『革新的次世代低公害車』の委員も務めている。自動車専門誌「Carトップ」「モーターマガジン」「ENGINE」「GENROQ」などで連載中。

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