「健康にいい」とブームを巻き起こしている水素水。以前からその真偽のほどが疑問視されていたが、ついに行政からイエローカードが出された。
昨今のヘルスケアブームに乗り、水道水から水素水をつくることのできる機械がバカ売れしている。どのような仕組みか説明すると、機械の中で水道水を電気分解して水素を発生させることで、老化やさまざまな病気の根源とされている活性酸素の一種であるヒドロキシラジカルという物質を抑制する水ができるというものだ。
このような機械を扱う業者のホームページを見てみると、活性酸素の悪性が執拗なほどに強調されている。その説明には、医師などの専門家がお墨付きのコメントを与えていることも多く、消費者の心配を煽る。そして、水素水を愛飲しているとされる人の「なんだか調子がよくなった」という抽象的な効果をうたう推薦文が多数掲載されている。
あたかも、水素水を飲めば、活性酸素が体からなくなるような印象を受ける文章になっている。
そんな水素水について3月10日、国民生活センターは「飲用による効果を表したものではありません」と指摘して、消費者に注意を呼びかけている。事業者のホームページやパンフレットには、その表面的なイメージとは異なり、重要な事実が記載されているというのだ。
それは、機械を通して得られる水は、あくまでその水の中のヒドロキシラジカルを抑制するにすぎず、示されているヒドロキシラジカル抑制率のデータは、人体に対する効果・効能を表すものではないという。つまり、機械によって生成された水素水は、活性酸素が抑制されたものであるということは事実だが、それを飲んだからといって体から活性酸素が抑制されるわけではなく、ひいては健康増進に寄与するわけではないということだ。
また、ヒドロキシラジカルを消去する能力を公的に評価する方法は存在しない。そのため、ホームページ等に記載されているヒドロキシラジカル抑制率は、事業者が独自に設定した条件の下で得られた結果であり、絶対的な効果を表すものではないという。国民生活センターは、「示されている数値に惑わされないようにしましょう」と注意喚起している。
国民生活センターの指摘に対して、水素水生成器の販売業者各社は、「商品販売において、さらに法律順守を徹底し、よりわかりやすい明示をするとともに、お客様に信頼される企業を目指していく所存でございます」などとコメントしている。しかし、最初から深く考えずに「なんとなく健康そう」というイメージだけで物を買う消費者の行動を見透かして、こうした記載をしていることは想像に難くない。
活性酸素が体を老化させるという事実は周知されている。だが、水素水生成器によってつくられる水が活性酸素を抑制するという明確な証拠はない。そもそも、確実な効果が保証されていない機械に、高額な費用を払う人などいないだろう。だが、いかにも効果がありそうなイメージを前面に押し出し、わかりづらいように小さな文字で「必ずしも効果を保証するものではありません」「効果には個人差があります」などと書くことで、医薬品医療機器等法(薬事法)違反ともならずに販売することができてしまうのが現状だ。
(文=則本正義/フリーライター)