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石徹白未亜「ネット依存社会の実態」

スマホ見ながら寝落ち、はこんなに危険!ブルーライトで眼病・睡眠障害・うつの恐れ

構成=石徹白未亜/ライター
スマホ見ながら寝落ち、はこんなに危険!ブルーライトで眼病・睡眠障害・うつの恐れの画像1「Thinkstock」より

 スマートフォン(スマホ)やパソコンの画面、LED電球から発生する「ブルーライト」。今はブルーライトをカットする眼鏡なども市販されており、「悪いもの」という印象を持っている人も多いのではないだろうか。

 しかし、ブルーライトは百害あって一利もないものではなく、むしろ「時間帯によっては、しっかりとブルーライトに接したほうがいい」と説く本がある。『ブルーライト 体内時計への脅威』(集英社)だ。著者で慶應義塾大学医学部眼科教授の坪田一男氏に、正しいブルーライトとの付き合い方について聞いた。

体内時計を狂わせ、失明の原因にもなるブルーライト

–そもそも、ブルーライトとは、どのような光なのでしょうか?

坪田一男氏(以下、坪田) そもそも光とは何かといえば、電磁波の一種です。さまざまな波動(波長)があり、その中で、ヒトの目が感知できるものを可視光といいます。ブルーライトは可視光の中の青色の光のことです。太陽の光は無色透明に見えますが、実際には波長が長い順に赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の光が混ざっているのです。虹の7色ですね。

 電磁波はエネルギーを持っていて、波長が短いほど強くなります。青い光は波長が短く、エネルギーが強いために大気中の水蒸気やチリに何度もぶつかり、跳ね返って空いっぱいに広がります。だから、空は青く見えます。青以下の藍や紫の光は、波長がさらに短く、散乱してしまうため地表には届きにくいのです。可視光線の赤よりも波長が長い光は「赤外線」、紫よりも波長の短い光が「紫外線」です。

 室内の照明やテレビやパソコンの画面の光は、さまざまな方法で発光していますが、近年開発されて急速に普及しているLEDには、透明に見える光の中に、実は青色の光がたくさん含まれています。

スマホ見ながら寝落ち、はこんなに危険!ブルーライトで眼病・睡眠障害・うつの恐れの画像2『ブルーライト 体内時計への脅威』(集英社/坪田一男)

–ブルーライトは、電子機器やLED電球によって生み出されたものではないのですね。でも、もともと自然界にあったものならば、なぜ近年、ブルーライトの健康被害が急に問題視されるようになったのでしょう。

坪田 液晶ディスプレイから発せられるブルーライトは、太陽からのブルーライトにくらべれば弱いものですが、現代人はともすると朝から晩まで長時間凝視する生活になってきました。光の照度は距離の二乗に反比例します。光源からの距離が2倍になると4分の1の照度になりますが、距離が2分の1になると4倍の照度になります。パソコン、さらにスマホは、光源をより近い距離で見つめるので、ブルーライトの影響がより大きくなってしまうことが危惧されています。

–なるほど。ブルーライトは、体のどの部分に影響をおよぼすのでしょうか。

坪田 これは、ふたつ考えられます。ひとつは目です。ブルーライトは、先ほどお話ししたように、波長が短く散乱しやすい性質のため、ちらつきが起こります。そのため、まぶしく感じたり、微細なぼやけが生じます。ぼやけて見えると、目はピントを合わせようとして、ピント調節をする筋肉が常に動いてしまいます。そのため、目の疲れが生じやすくなります。

 また、「加齢黄斑変性」という眼病があります。アメリカでは成人の失明の理由の1位であり、日本でも4位となっている病気です。これは、目の網膜の中心で最も光が集まり視力に大切な場所の「黄斑部」が酸化して変性してしまい、視細胞が正常に働かなくなる病気です。酸化の原因として、食事の欧米化やストレス、化学物質などが挙げられますが、さらに近年、ブルーライトが大きな影響を与えているのではないかと考えられるようになってきました。

スマホ見ながら寝落ち、はこんなに危険!ブルーライトで眼病・睡眠障害・うつの恐れの画像3ブルーライトの人体への影響(「ブルーライト研究会」より)

 そして、ブルーライトは目だけでなく、全身に影響を及ぼすことがわかってきています。ブルーライトはサーカディアンリズム(体内時計のリズム)を乱してしまいます。生物は太陽の光とともに長い間暮らしてきました。そのため、光を感知すると体が朝、昼のモードになり、光がなくなると夜のモードになるようにできています。夜にスマホやパソコン、LED電球に囲まれた「明るい」暮らしをしていると、体は「まだ朝だ」と判断してしまうのです。

眠る前のスマホで、うつや認知症になる?

–サーカディアンリズムが乱れると、どのような弊害が出るのでしょうか。

坪田 本来、夜の睡眠前はリラックスする副交感神経が優位になるべき時間帯ですが、ブルーライトを過剰に浴びると交感神経が優位になってしまいます。そのため、寝つきが悪くなり、睡眠の質が下がります。また、血圧や代謝などの体のさまざまなシステムのバランスが崩れてしまいます。マウスでの実験ですが、夜に明るい環境で過ごすと太るという研究結果もあります。

 さらに、国際線の客室乗務員や交代制勤務者など、不規則な生活の人は、糖尿病や高血圧のほか、がんの発生リスクが上昇するという調査結果があります。乳がん、前立腺がん、肺がん、すい臓がん、結腸がん、直腸がん、膀胱がんなど、ほとんどすべてのがんの発症リスクが高まることも確認されています。病気以外にも、うつや認知症になりやすくなるともいわれています。

–「ベッドでスマホを見たまま寝落ち」は、心身ともにさまざまな健康リスクがあるんですね。

寝る2時間前にはスマホやPCをオフ!

–「日本の夜は明るすぎる」とは、よくいわれますね。コンビニや家電量販店、自動販売機はまぶしいくらいです。

坪田 日本人の瞳は濃い茶色ですが、欧米人はブルーやグレーなど、薄い色の瞳が多いですね。薄い色の瞳はブルーライトから目を守るメラニンが少なく、太陽光をまぶしく感じやすいんです。サングラスをする人が多いのも、そのためです。

–日本人はまぶしさに強い分、逆に気をつけないといけませんね。ブルーライトとは、どのように付き合っていけばいいでしょうか?

坪田 基本は「朝と昼はしっかり浴びて、夜はできるだけ浴びない」です。ブルーライトは絶対的に悪いものではなく、むしろ、朝と昼はサーカディアンリズムを整えるために適度に浴びることが大切です。

–確かに、日中外に出て日の光を浴びると、夜はぐっすり眠れる気がします。疲れるせいかと思っていましたが、光によってサーカディアンリズムが整ったためにぐっすり眠れたというのもあるのでしょうね。

坪田 はい。大切なのは、浴びる時間帯です。職場の照明を変えるのは難しいでしょうから、自宅の照明は工夫してみましょう。

–照明は、どう選べばいいでしょうか?

坪田 明かりの色が黄色っぽいものであれば、ブルーライトは少ないと考えていいです。また、明るさが半分になればブルーライトも半分になるので、最近増えている調光できるタイプの照明器具もよいでしょう。間接照明を使うのもいいですね。

 夜はスマホやパソコンを使わないのが理想ですが、なかなかそうはいかないと思いますので、見る時はブルーライトカットの眼鏡を着用する。そして、寝る2時間前にはスマホやパソコンから離れることを心がけましょう。ベッドまでスマホを持ちこむのは、毎日寝る直前にケーキを食べるのと同じくらい体に悪いことなのです。

–スマホやパソコンは画面の明るさを調整できます。こちらも、画面を暗くしたほうがいいでしょうか? 画面を暗くしたり、または暗い部屋でスマホやパソコンを使ったりすると、今度は視力が落ちないかな、という不安があるのですが。

坪田 暗い部屋というのがどのくらい暗いかわかりませんが、夜間に昼間のような光を目に入れることがよくないのです。夜になったら暖色系のやさしい照明の部屋でくつろいで過ごすことが健康には望まれるのです。

 しかし、勉強や仕事を5時では終了できないでしょう。その場合は、目が疲れないような適度な明るさの元に作業をすることが大切です。パソコンやスマホの画面にも、今はブルーライトを軽減するソフトがありますから、そういったものを活用して、まぶしさから目を守る。そもそも夜遅い時間に仕事や勉強をするのであれば、早く寝て早起きして、翌日の早朝に行ったほうが、効率もだんぜんいいはずです。

 視力低下に関しては、今さまざまな研究がされていますが、まずは昼間にしっかり太陽の下で運動する。本やパソコンの画面を見る時は、正しい姿勢で距離を保つ。見づらい画面(文字が小さい、まぶしい、暗いなど)はきちんと見やすい状態にする、などが大切と考えます。スマホは手に持って近くで長時間見てしまいがちですので、成長期のお子さんなどは特に注意が必要です。

–特に女性の場合、紫外線の肌への影響を心配して、日に当たるのを避ける人は多そうですよね。

坪田 紫外線は大量に浴びると皮膚がんなどの原因にもなり、皮膚のアンチエイジングという観点からすれば防ぎたいものですが、紫外線に当たることで体内でビタミンDが生成されます。これは免疫の働きや骨の健康に重要なので、1日のうち、せめて15~30分程度は紫外線を浴びたほうがいいと考えられます。紫外線をカットしすぎて骨が弱くなっている、という指摘もあります。何事も適度が重要です。多すぎてもダメ、少なすぎてもダメ、ということです。

ほうれん草の小鉢が目を守る!

–目にいい食べ物といえばブルーベリーの印象が強いですが、いかがでしょうか?

坪田 ブルーベリーに含まれる天然色素「アントシアニン」が目にいいといわれています。アントシアニンは、ブルーベリー以外にもベリー系の果実や青紫色のナスの皮にも含まれています。アントシアニンは、目に届いた光を脳に信号として送る際に働くロドプシンという物質の合成に役立ちます。また、酸化を防ぐ抗酸化の働きもあります。目の健康では、アントシアニンだけではなく、ビタミンCやビタミンAも基本的に大切な栄養素です。

 また、ブルーライトなどの光から目を守る栄養素として、緑黄色野菜や卵黄に含まれる色素成分「ルテイン」が注目されています。目の黄斑は、黄色く見えるために「黄斑」と呼ばれているのですが、光が集まる場所のため、ブルーライトから細胞を守るために黄色い色素が集まっていると考えられています。ルテインを摂取することは目にとてもいいといえます。メニューにおひたしなどの小鉢を毎食足せば、続けやすいと思います。

–ありがとうございました。

 私は1日中パソコンに向かう仕事なので、以前よりブルーライトカット眼鏡は使っていたが、今回のインタビューを終えて、部屋の照明を「白い光の明るい照明」から「黄色い光の間接照明」に変えた。部屋のなかのパソコンを使う部分にだけ光が当たるようにして、部屋の隅々まで明るくしないようにした。

「就寝1時間前にはパソコンの電源を落とす」は守りきれない時もあるが、夜、部屋が薄暗いと、それだけで気持ちが落ち着き、明らかにリラックスできることがわかり、ずっと続けている。しばらくして、以前使っていた「白い光の明るい照明」を夜につけると、まぶしく不快に感じて驚いた。

 逆に、朝は起きたらすぐにベランダに出て太陽光を浴びるようにした。いい睡眠が取れなかった気だるい朝も、しばらく光を浴びると、それなりにシャキッとしてくる。

「朝のまぶしさ」も「夜の暗さ」も、即効性があるのがいい。心地よく感じるのは、本来はこれが、生命が数億年以上繰り返してきた生活リズムだからなのだろう。「なんだか、よくわからないが調子が悪い」「だるい」という人は、自分のまわりの「光害」をぜひ見直してみてほしい。
(構成=石徹白未亜/ライター)

『ブルーライト 体内時計への脅威』 スマートフォン、タブレット、LED照明……今や日常生活の至るところで、我々が否応なく過剰に浴びているブルーライト。実は、その光は眼に、人体に深刻な影響を与えている。眼精疲労や加齢黄斑変性など眼への影響だけではなく、夜間に過剰なブルーライトを浴びると体内時計が壊れ、心身に変調をきたすのだ。LEDディスプレイから発せられる、そうした光をカットするPCメガネの登場など世の中の関心が高まるなか、増え続けるブルーライトの使用に警鐘を鳴らし、対策を伝授する。 amazon_associate_logo.jpg
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