2017年4月で1周年を迎える動画サービス「AbemaTV」。アプリのダウンロード数1500万を突破した「AbemaTV」の特徴は、テレビと同じような番組編成の「リニア配信」スタイルだ。
「YouTube」をはじめオンデマンド型の配信サービスが多いなか、従来型のリニア配信を取り入れた理由はなんなのか。また、オリジナルコンテンツではどのような番組が人気なのか。AbemaTVの取締役でサイバーエージェント常務取締役も務める小池政秀氏に話を聞いた。
AbemaTVは後発だからこそテレビ型に
――テレビのようなリニア配信スタイルを選んだ理由について、教えてください。
小池政秀氏(以下、小池) サービスを開始したのは16年4月で、動画サービスとしてはかなりの後発です。「dTV」から「ネットフリックス」「アマゾンプライム・ビデオ」と充実しているサービスが林立するなか、同じモデルで参入しても勝てません。ましてや、資本の勝負になればなおさらです。
そのため、「AbemaTV」は斬新さを打ち出す必要があり、「ネットなのに受動型のテレビ視聴スタイルで多チャンネルで無料」にすれば食い込めるのではないか、と考えたわけです。
――差別化に差別化を重ねて、と。
小池 ただ、差別化することが目的になってしまうと、結果的にろくでもないサービスになる可能性もあるので、それはきっかけ程度でした。もともと日本人はテレビが好きですし、「どんな番組が流れているかはわからないが、とりあえずテレビをつけておく」というスタイルに慣れている点は大きいと思います。
私自身、「ネットフリックス」も「アマゾン」の動画サービスも使いますが、見たいコンテンツを探すのに疲れることもあります。そこで、「アクセスすればすぐに見られる」「いつでも何かやっている」という動画メディアがあってもいいのではないかと考えました。
――無料会員と有料会員(月額960円)がありますが、違いはどこにありますか?(※有料会員数は非公開)
小池 番組をいつでも見返すことができるオンデマンド配信の範囲の違いですね。有料会員は、オンデマンドで見られる番組の幅が大きくなります。
若者世代に刺さるAbemaTV、スマホ視聴が8割
――「AbemaTV」は、どんなデバイスで見られることが多いですか?
小池 スマホ、タブレット、パソコンのほか、テレビ(「Apple TV」「Fire TV」「Andoroid TV」「Chromecast」を利用)でも見られます。ざっくりですが、スマホ視聴が8割で、タブレットとパソコンが1割ずつ。テレビ対応は始まったばかりなので、これから伸びていくと思います。
――スマホが8割なんですね。こんな小さい画面で番組を見るのか、と思ってしまいますが。
小池 30~40代の感覚では、確かに「こんなに小さな画面で」と思ってしまうのですが、10~20代の若い世代は「YouTube」をスマホで見ることに慣れています。そのあたりの感覚は、全然違うんですよね。そのため、「AbemaTV」はメインターゲットを若い世代に据えています。若い世代は、ほとんどテレビを見ていない世代でもあるので、そういった方々が見たいと思えるものをいかに提供できるかが大事です。
――「ターゲットは若い世代」ということですが、モニターの利用動向からアプリの利用実態を調べる「App Ape」というサービスを提供するフラーを取材した際には、「『AbemaTV』は30~40代の男性の利用が多い」という話がありました。【※1】
小池 はい。サービス開始直後は8割くらいが男性で、世代も今より上でした。ただ、徐々に若い方と女性の利用者が増えていき、今は18~25歳の利用が一番多いですね。現状、18歳以上の方の利用状況しか把握することができませんが、17歳以下のユーザーも少なくないと思います。
――男女比はどうですか?
小池 18~25歳では男性は65%で、年齢が上がっても男女比は大きくは変わらないですね。若い世代のほうが女性の比率が少し上がるかな、というくらいです。
約30チャンネル!AbemaTVの“選球眼”とは
――現在、「AbemaTV」のチャンネル数は約30ですが、「チャンネル数をこれぐらいまで増やそう」などの目標はありますか?
小池 「40チャンネル目標!」といった数値目標はなく、結果的に現時点では約30チャンネルになっているという感じです。チャンネル数が増えればサービスがよくなるというわけでもないので、チャンネルの統廃合は随時やっていかないといけないと考えています。
――「AbemaTV」の番組には、オリジナルと既存のものを二次利用している2つのケースがありますが、既存の番組を調達する際にはどのようなポリシーがありますか?
小池 「AbemaTV」でしか見られないコンテンツがベストですが、そうなると「自社で制作する」か「独占で押さえる(コンテンツの買い切り)」という方法しかありません。1タイトルだけで勝負しようとすると、それこそ世界的な人気を誇る作品など質の高いコンテンツを仕入れる必要がありますが、それは予算的に難しい。
そのため、1タイトルではなく「そのチャンネルで放送する意味が見いだせればOK」と考えています。アニメ、スポーツ、麻雀や釣りなど、そのジャンルを視聴するユーザーに満足してもらえるような編成を意識して、ユーザーのニーズをつかみ取る“選球眼”に価値を置いています。
10代狙い撃ちの『オオカミくんには騙されない』
――「AbemaTV」の独自制作の番組では、どういったものが人気を集めていますか?
小池 昨年末に放送した『AbemaTV presents フリースタイルダンジョン東西!口迫歌合戦』の視聴数は、当時過去最高の340万となりました。『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)は即興のラップバトルを繰り広げる音楽バラエティ番組で、「AbemaTV」のバラエティチャンネルでも放送しています。
――ラップの番組を始めようと思ったきっかけはなんでしょうか?
小池 藤田(晋氏/サイバーエージェント代表取締役社長)がラップに明るかったというのがありますね。ラップ人気は再燃しているわりにメディア露出が少なかったんです。
――先ほど、「若い女性の視聴者が増えている」とありましたが、若い女性にはどういった番組が人気でしょうか?
小池 ドラマですね。アニメも、タイトルによっては女性に人気の高いものがあります。なお、若い男性になると女性よりも視聴の対象が分散する印象があります。アニメもドラマも見るし、バラエティも音楽ライブも見る……といった具合に。
――若い女性向けのオリジナル番組はありますか?
小池 2月から放送が始まった『オオカミくんには騙されない』というバラエティ番組ですね。
いわゆるリアリティーショーで、出演している女子高生や男の子は10代に人気のモデルたちです。出演者たちが交流するなかで「恋愛が生まれるか」を追いかける恋愛ドキュメンタリーです。
――『テラスハウス』(フジテレビ系)や古くは『あいのり』(同)的な……。
小池 はい。ただ、男の子のなかで最低でも1人だけ嘘をついている子がいるという仕掛けをしています。本当は好きじゃないのに好きなふりをして、コミュニティをひっかき回します。恋愛ドキュメンタリーに加え、嘘をついているのが誰なのかを推理するという要素も売りのひとつです。
その観点では、「人狼ゲーム」【※2】をモチーフにしています。30代以上の方は、出演しているモデルたちも人狼ゲームのこともよくわからないかもしれませんが……。そういった点からも、徹底的に10代をターゲットにした番組です。
――ありがとうございました。
後編では 「AbemaTV」の“選球眼”や今後の課題やビジョンについて、引き続き小池氏の話をお伝えする。
(構成=編集部)
【※1】2016年12月4日付記事『AbemaTV、ユーザー爆増でニコ動を超えた?新たな視聴スタイルはテレビの先を行くか』
【※2】村のなかに村人に化けて紛れ込んでいる狼を、村人たちが協力して探し出す心理戦ゲーム。