■本当に優秀な企業は、どの企業か?
日本において、「優秀な企業」と言えば、どんな企業が連想されるだろうか。
世間に名の知られた企業、海外進出がめざましい企業、総資本や売上高が大きい企業。さまざまな切り口から、その優秀性を推し量ることはできるが、そうした表面的な情報だけでは、企業の優秀性を評価するのは早計だ。
そのことを教えてくれるのが『日本の優秀企業研究』(新原浩朗著、日本経済新聞社刊)である。2003年に出版され、今なお読み継がれているビジネス書の名著だ。
本書では、「優秀な企業に共通的に見いだせて」、しかも「そうでない企業に見いだせない」という特徴を探し、競争力に貢献している要因は何か、他の企業にも参考になりうる共通的に応用できる要因は何かということを調べ上げている。
その調査方法は徹底している。財務データを細かく精査し、良好な成果がたまたまの外部的要因や政府規制などの特別な環境要因にあると考えられる企業は除いている。
すなわち、どんな状況にあっても一定の業績を堅持し、持続的に優秀であると認められた企業のみが抽出されているということだ。
しかも、「この企業は優秀に違いない」というバイアスに左右されないよう、事実のみを見て企業を選び出す帰納法的な調査に終始しているので、結果的に見出される「優秀な企業の条件」は、信憑性の高いものだろう。
そうやって絞り込まれ、本書でその事例を取り上げられている企業は、「花王」「キヤノン」「シマノ」「信越化学工業」「セブン-イレブン・ジャパン」「トヨタ自動車」「任天堂」「本田技研工業」「マブチモーター」「ヤマト運輸」の10社だ。
本書の巻末には、経済産業研究所が実施した上場企業の経営者への意識調査の結果が掲載されているが、多くの経営者が「注目している企業」に、「マブチモーター」や「シマノ」や「任天堂」は含まれていない。
このことからも、一般的な評価とは異なる「本当に優秀な企業」が厳選されていることが見て取れる。
■優秀な企業に共通する「6つの条件」とは?
では、優秀な企業のみがもっている特徴とはどんなものか。著者は、優秀企業に共通して見出せる「6つの条件」を挙げている。
1.分からないことは分けること
(経営者自身が分かっていない事業を、自分の責任範囲の事業として手がけない)
2.自分の頭で考えて考えて考え抜くこと
(トップが論理的)
3.客観的に眺め不合理な点を見つけられること
(経営者がしがらみにとらわれず事業を俯瞰できる)
4.危機をもって企業のチャンスに転化できること
(追い詰められても冷静さを失わず、新しい方向性を見いだせる)
5.身の丈に合った成長を図り、事業リスクを直視すること
(市場に邪魔されない自律性を有している)
6.世のため、人のためという自発性の企業文化を埋め込んでいること
(経営者と従業員の双方を律する自己規律がある)
条件だけを見ると抽象的な印象を受けるが、本書では、前述した企業の事例から具体的な解説がされている。