たとえば、ひとつ目の「分からないことは分けること」では、「マブチモーター」の事例が興味深い。
「マブチモーター」は、ミニ四駆などの玩具で遊んだ人には馴染み深い企業だろう。
同社は、「DCブラシ付き民生小型マグネットモーター」という非常に古典的で、平均単価わずか72円という安価なモーターの専業企業だ。
にもかかわらず、総資本経常利益二桁。売上高経常利益率が20~30%という高い業績を誇り、世界シェアの55%を占めている。
これは、自社が取り組む事業の範囲を徹底して絞り込んだ上で、優秀な成果を上げている企業として注目すべきことだ。
同社は、多角化がもてはやされた時期や財テクに走る企業が相次いだ時期にもブレずに事業に取り組んできたという。
シェーバーで有名なドイツのブラウン社が、「コアレスモーター」というマブチモーターが手がけていない製品の開発を依頼されたときも、その申し出を断り、自社がつくるモーターをブラウン社が納得する形に改良して提供した。それ以降、ブラウン社のモーター調達先はマブチモーター一本やりとなったという。
■主流から外れた人材のほうが、客観性を持った経営者になる
「6つの条件」のうち、意外に難しいのが、三つ目の「客観的に眺め不合理な点を見つけられること(経営者がしがらみにとらわれず事業を俯瞰できる)」という条件だ。
著者は、調査・研究を進める中で「良好な成果を上げている企業、特に企業改革に成功した企業の経営者をみていると、経営者は〝傍流の時代〟とも呼ぶべき現象が観察された」と述べている。
つまり、会社の主流を歩み順調に出世してきた人より、多少、主流から外れた、周辺部署や子会社で苦労した人物の方が本社の中枢に入り、改革を成功させている場合が多いという。
右肩上がりの時代には、上手に神輿に乗ってくれる経営者でもそれなりに成果は出せただろう。だが、神輿に乗っていれば良いという経営は、すべてのマーケットが拡大していく高度成長期ならではのものであり、今の時代には全く通用しない。
それでも、長らく成果を上げてきた経営者は、過去の繁栄を成功体験として持ち続け、その方法に疑問を持たない場合も多い。そうならないためには、フラットな視点で合理的な判断ができることが必要なのだ。