日本ハムは3月、「森の薫りシリーズ」の3商品(あらびきウインナー、ロース、ハーフベーコン)を「発色剤を使用しない無塩せきタイプ」にリニューアルした。ハム、ソーセージ、いくら、すじこ、たらこなどに使われる発色剤の亜硝酸塩は、体内で動物性たんぱく質が分解してできたジメチルアミンと反応し、発がん物質であるジメチルニトロソアミンを生成することで知られている。
消費者が摂取したくない添加物の代表的な物質が、消費者が大好きなハム、ソーセージに付き物だった。大手メーカーは、自社の主力商品に影響が出るのを避けるため、発色剤不使用のハム・ソーセージをシリーズ化して販売することはほとんどなかった。大手が本格的に参入しない無塩せきハム・ソーセージは、まるで中小メーカーの専売特許のような状況が続いていた。ところが、そこにトップメーカーの日本ハムが本格的に参入してきた。安心・安全を売り物にしていた中小メーカーにとっては、大きな脅威である。
では、どうして今、日本ハムは無塩せきに参入したのか。もちろん、製造技術がなかったわけではない。発色剤を悪者扱いされるのを嫌っていたにすぎない。しかし、事情が大きく変化してきた。それは、2015年にIARC(世界がん研究機関)が、5分類されている発がん性の評価で、加工肉を発がん性の根拠が一番強い「グループ1(人に対して発がん性がある)」に、レッドミート(赤肉)を2番目に根拠の強い「グループ2A(人に対しておそらく発がん性がある)」に分類し、加工肉は「1日50g摂取するごとに、大腸がんのリスクが18%増加する」、赤肉は「1日100g摂取するごとに大腸がんリスクが17%増加する」と発表したことだ。
この件に関しては、15年11月25日付本連載記事で詳しく解説しているが、どうして加工肉がグループ1で、食肉がそれよりも危険性が低いグループ2Aにされたのかは公表されていない。「発がん性がある加工肉に含まれる発がん物質はいったい何か」ということも公表されていない。
では、加工肉と食肉の危険性のレベルが違うのはなぜだろう。それは、食肉には含まれず、加工肉には一般的に含まれる発色剤の差ではないかと想像できる。つまり、体内で発がん物質を生成する発色剤が、大腸がんのリスクを高めるのではないかという疑いがあるのだ。
2年前にテレビでも大きく取り上げられ、消費者の関心も高まったが「日本人の摂取量なら安全だ」という声が強くなり忘れ去られた感がある。しかし、ハム、ソーセージメーカーは、それでも消費者の動向を注視している。そして「無塩せきハム、ソーセージが、添加物に非常に関心の高い層だけでなく、少し関心がある層にまで需要が広がってきた」という感触を得たのではないだろうか。
イーストフード
パン業界にも変化が見られる。現在、テレビのCMで「イーストフード、乳化剤不使用」と大々的に宣伝しているが、イーストフードが使われていない食パンは以前から販売されていた。数年前までは、イーストフードが使われていないことを強調することは、パン業界ではタブー視されていた。
それは「イーストフードを使った食パンが悪者扱いされることを懸念していた」からだ。イーストフードを使っているパンメーカーへの遠慮もあったのかもしれない。それが今や「イーストフードを使っていないパンのほうが品質が良い」と堂々とテレビで流している。前回述べたように、大手小売店でも添加物準フリーの品揃えを強化し始めている。それに呼応したかのように、大手メーカーも添加物準フリーをセールスポイントとして、商品の差別化戦略を前面に押し出してきた。
大手企業は「添加物が悪いという意味ではなく、不必要な添加物は使わない」ということを言いたいのだろう。しかし、結果的には「添加物を使わなくても、安全で、美味しく、しかも素材本来の味を楽しめる」ということを証明したことになる。添加物フリーや添加物準フリー商品が、一般的になることは非常に良いことだ。もっともっと増やしてほしいが、お手軽な価格にしてほしい。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)