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松村太郎「米国発ビジネス&ITレポート」

アップル、急速に米国内へ資金還流…トランプに巨額経済貢献と2万人新規雇用を宣誓

文=松村太郎/ITジャーナリスト
アップル、急速に米国内へ資金還流…トランプに巨額経済貢献と2万人新規雇用を宣誓の画像1アップルストア(撮影=編集部)

 Appleは同社のウェブサイトで、今後5年間の投資と雇用創出で、米国経済に3500億ドルの貢献を行うことを発表した。米国のトランプ政権の減税政策には、法人減税に加え、海外に滞留する米国企業の資金を環流させるための減税案(レパトリ減税)が含まれている。Appleは現在、2523億ドルの資金を米国外に持っており、このうちの大半を米国に環流させ、380億ドルの税金を米国に納めることも発表した。

 これとは別に、300億ドルの投資を行うとしており、現在8万4000人いる従業員に追加で2万人を雇用する。また、10億ドルで設立していた同社の先端製造業ファンドを50億ドルに増額し、米国内の製造業への投資を加速させることも発表した。Appleは2017年にカリフォルニア州クパティーノの新たな本社施設Apple Parkをオープンさせたが、ネバダ州リノに新たな施設を建設することも発表した。

 Appleが米国投資に対して積極的な姿勢を示す背景には、トランプ政権との関係性が挙げられる。Appleに限らず、シリコンバレー企業は、移民政策、環境政策、製造業に対する政策などで対立軸が多く存在している。

 特にAppleは世界最大の時価総額を誇る米国企業であり、トランプ大統領の当選前から米国製造業の再興の象徴として「iPhoneを米国製造にすることがゴール」との発言を繰り返している。現在のiPhoneの生産体制を考えれば、あまり現実的ではないことは明らかだが、Appleはトランプ大統領の方針に対して「具体的な施策」を示すことが必要だったとみられる。

iPhoneの「アメリカ色」を高めていく

 Appleは世界各国の技術や部品、素材などを活用し、中国やインド、ブラジルでの組み立てによって、主力製品のiPhoneを製造してきた。なかには米国のサプライヤーも数多く含まれている。Appleのサプライヤーリストから「United States」を検索するとわかる。

 トランプ大統領はこのリストをすべて米国企業で埋め尽くしたいのか、あるいは最終組み立てが米国内で行われれば満足するのかはわからない。しかし、Appleにとって米国の競争力ある先端製造業が成長し、iPhoneの製品力につながる価値をつくり出せるのであれば、将来的なメリットになる。

 前述の先端製造業ファンドについては、iPhoneの強化ガラスを供給するCorning(ケンタッキー州)と、光学技術に強く今後Face IDを実現するセンサーでのVertical Cavity Surface Emitting LASER(垂直共振器面発光レーザー)の研究開発に取り組むFinisar(テキサス州)に投資を行った。ファンドの資金を5倍に増やしたことで、今後もより多くの企業への投資を加速させていくことが予測できる。

新型iPhoneで目指していくこと

 Appleの売上高の6割前後は、同社のスマートフォン「iPhone」によって得られている。Appleは17年にiPhone 8、iPhone 8 Plus、iPhone Xの3機種を発売し、特にiPhone Xは999ドルからというこれまでよりも200~300ドル高い価格を付け、有機ELディスプレイや顔認証システムなど、次世代のiPhoneを先取りする存在と位置づけた。

 スマートフォン市場の成熟が進んでいくことで、先進国・途上国ともに、新たにスマートフォンを購入するという顧客は減る一方だ。そのため、他社製品からの乗り換えや買い替え需要の喚起を行っていく必要がある。同時に、そのなかで付加価値の向上による販売価格の上昇は、売上高を伸ばすに当たって重要な指標となる。

 iPhone Xでは、有機ELディスプレイとTrueDepthカメラという2つの新しいパーツと、これと組み合わせる体験によって、200~300ドルのプレミアム価格を追加した。今後Appleが将来のiPhoneに対して付加価値を追加し続けるためには、Appleならではのテクノロジーと体験を用意し続けることが必要となる。

 技術革新はしばしば非線形となることもあるが、新しいiPhoneの価値をつくり出す上には、数年先のiPhoneの姿を前提とした投資と技術的な解決が必要だ。まさにAppleが取り組んでいるのはこの部分であり、米国投資の加速もその手法の1つに組み込まれていることが考えられる。

 Appleは2月1日に18年度第1四半期決算(17年10~12月)を発表し、売上高は883億ドル(前年同期比13%増)と過去最高を記録。これまで更新を続けてきたホリデーシーズンのiPhoneの販売台数以上に、その売上高の成長に期待がかかる。高額なiPhone Xが導入されたことで、販売台数以上に売上高が伸びた可能性があり、1台あたりの平均販売価格の変化が、iPhone Xの実力を測るための目安となる。Appleの今後の米国投資やiPhone進化の方向性を占う試金石となるだけに、注目していくべきだ。
(文=松村太郎/ITジャーナリスト)

松村太郎/ITジャーナリスト

松村太郎/ITジャーナリスト

慶應義塾大学政策・メディア研究科卒業後、ジャーナリストとして独立。テクノロジーとライフスタイルの関係を追いかける。2011年より8年間、米国カリフォルニア州バークレーに住み、テクノロジーの震源地であるサンフランシスコ・シリコンバレーを現地で取材した。
学校法人信学会 コードアカデミー高等学校

Twitter:@taromatsumura

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