マネックスグループがコインチェックの全株式を36億円で買収する。4月6日夕刻、両社のトップが記者会見し、発表した。企業は前向きではない“悪い話”の発表は金曜日にするというセオリーがある。金融庁は同日、仮想通貨のみなし業者3社の行政処分を決めた。
「金融庁の森信親長官に言われたのだろう。『買収したらどう?』という具合に」(ネット証券大手の幹部)
仮想通貨バブルを放置した金融庁は、コインチェックの“処理”と、みなし業者の再度の処分を、4月6日に同時に行ったと皮肉る向きもある。金融庁は「健全市場の育成にはアメとむちが必要。基本的に厳しく規制していく」との方針を明確に打ち出し、一件落着としたいようだ。
コインチェックは仮想通貨取引所としては国内最大規模の170万口座を抱え、2017年12月期の取引高は3兆9000億円、社員は71人いた。だが、スキャンダルで現在はピーク時の4割の70万口座まで減少したとの指摘もある。タレントの出川哲朗を起用したテレビCMを17年12月13日からテレビで大量に流し、知名度を上げてきた。
マネックスの発表資料によると、コインチェックの17年3月期の実質的な売上高は9億8000万円。これに対して営業利益は7億1900万円。営業利益率は実に73%に達する。空前の仮想通貨ブームとなった18年3月期の利益は、1000億円程度にまで膨らんだとの見方がある。NEM(ネム)の外部流出によって支払いを余儀なくされた466億円の補償金を、過去の儲けのなかからすでに払い終えたというのだから、その高収益ぶりには目を見張るものがある。
マネックスの松本大会長兼社長にとって、コインチェックの買収は、時間を買うことと等しい。傘下に収め、時間をかけずに市場シェア(占有率)を確保する。仮想通貨業者の手数料は「取引高の数%から10%」(関係者)といわれており、「大手業者は100億円単位の月間利益を稼いでいた」(同)。「松本氏は、この高い手数料に目がくらんだ」との辛口の指摘もある。
仮想通貨業者は“手張り”もしていた。安い段階で仮想通貨を買い入れて、個人投機家に高値で転売して莫大な利益を上げていた。マネックスは東証1部上場企業であるため、仮にこんな“あざとい”商売をすれば、非難轟々となることは避けられない。
マネックスは、インターネット専業のマネックス証券を中核とする金融グループである。米ゴールドマン・サックス証券出身の松本氏(当時社長)とソニーが共同出資で1999年に設立した旧マネックス証券と、日興コーディアルグループ(現SMBC日興証券)のネット証券子会社が2004年に経営統合して、現在のかたちになった。
ネット専業証券として、売上高ではSBI証券、楽天証券に次いで国内第3位。2月現在の口座数は175万口座。預かり資産は4兆3124億円。営業拠点は持たず、株式の売買手数料や外国為替証拠金取引(FX)の委託手数料を安く設定し、業績を伸ばしてきた。だが近年、同業他社との価格競争が激化し、手数料収入が減っている。新たな収益源を探しているなかで、コインチェックに行き当たったわけだ。