日本財政は現状でも厳しいが、2025年、団塊の世代すべてが75歳以上の後期高齢者となり、医療・介護費の膨張圧力が増すために一層厳しくなる。このような状況のなか、財政の持続可能性を高めるため、政府・与党は、今年(2018年)6月頃にまとめる骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)で、新たな財政再建計画を策定する予定である。
争点の一つは、国と地方を合わせた基礎的財政収支(PB:プライマリーバランス)の黒字化目標の達成時期をいつに定めるかというものだが、膨張する医療費管理の自動調整メカニズムなどにも関心が高まっている。
医療費の自動調整メカニズムとして、財務省は自己負担の増減で対応することを提案しているが、医療・介護費の抑制について、筆者は診療報酬等の自動調整で対応したほうが良いと考えており、5月上旬に開催された自民党・財政再建に関する特命委員会の「財政構造のあり方検討小委員会」でもその説明を行った。理由は以下の通りである。
応能負担別「窓口負担」が重要
第1は、要対応額の規模である。財務省の財政制度等審議会財政制度分科会が起草検討委員の提出というかたちで公表した「我が国の財政に関する長期推計(改訂版)」(平成30年4月6日)によると、医療給付・介護給付費(対GDP)は、2020年度頃に約9%であったものが、2060年度頃には約14%に上昇する。医療・介護費の合計は40年間で約5%上昇する。名目GDPが550兆円とすると、これは約28兆円に相当する。今の医療・介護費は約50兆円で、その5割以上の規模である。
第2は、自己負担による調整の限界である。まず、医療費の窓口負担(自己負担)は、75歳以上の者は1割(現役並み所得者は3割)、 70歳から74歳までの者は2割(現役並み所得者は3割)、現役世代を中心とする 70歳未満の者は3割、6歳(義務教育就学前)未満の者は2割で、基本的に年齢別となっている。このほか、同一の月にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、自己負担限度額(平均的サラリーマンの場合は約9万円)を超えた分が、後日払い戻されるという「高額療養費制度」が存在する。
医療費の自己負担は、これらを考慮したものであるが、現在の国民医療費は約40兆円で、そのうち自己負担(患者負担)は約5兆円となっている。残りは保険料と公費で賄っており、国民医療費を100%とすると、高額療養費制度の影響を含めて自己負担は約12%となっている。
では、現在の自己負担を2倍にすると、いくらの財源が確保できるのか。国民医療費は約40兆円で、そのうちの約12%の5兆円が自己負担であるから、大雑把にみても約5兆円である。しかしながら、自己負担限度額を定める高額療養費制度が存在するため、5兆円よりも少ない額となる可能性が高い。約28兆円もの要対応額の1割にも満たない可能性もある。