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藤和彦「日本と世界の先を読む」

サウジアラビア発・中東危機の兆候…日本、「国家石油備蓄の放出」準備が急務

文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員
サウジアラビア発・中東危機の兆候…日本、「国家石油備蓄の放出」準備が急務の画像1ホルムズ海峡でタンカー2隻に攻撃(提供:ISNA/AP/アフロ)

 中東地域の地政学リスクが日に日に高まっている。ホルムズ海峡周辺で米国とイランの間の偶発的な衝突が生じれば、制御できないまま大規模な紛争にまで拡大し、数カ月にわたってタンカーが航行できなくなる可能性がある。

 歴史を振り返ればホルムズ海峡の最大の危機はイラン・イラク戦争(1980~88年)だった。戦争の後半になるとイラン・イラク両国共に原油タンカーを標的にするようになったことから、米英をはじめとする関係各国は「ホルムズ海峡の輸送を守る」と表明、護送船団を組織した。タンカー護衛を率先して引き受けた米軍は1988年、機雷による攻撃を受けた報復として、イランの石油プラットフォームを破壊、イラン海軍の複数の艦船を撃沈した。

 30年前は体を張って中東地域の安全を確保した米中央軍だったが、今回はスタンスが違っている。タンカー事故が生じた6月13日、「同国は中東での新たな紛争に関与することに関心はない」との意向を表明した。トランプ米大統領も22日、「海上原油輸送の大動脈ホルムズ海峡をそれほど必要としていない」と述べた。

 中東産原油への依存から実質的に脱した米国には、「ホルムズ海峡の危機で米国の若者の命を危険にさらす」という選択肢はなくなってしまったのではないだろうか。

サウジをフーシ派が攻撃

 筆者が心配しているのはホルムズ海峡ばかりではない。13日のタンカー事故のせいで日本ではほとんど報道されていないが、サウジアラビアがイエメンのシーア派反政府組織フーシ(フーシ派)の大攻勢に苦しんでいる。タンカー事故の前日(12日)にフーシ派はサウジアラビア南西部のアブハ空港を巡航ミサイルで攻撃し、民間人26人を負傷させた。アブハ市は標高約2300mにある高原都市(人口約39万人)である。

 フーシ派はさらに19日、サウジアラビア南西部にあるジャザーン市(人口約10万人)の海水蒸留施設に対して巡航ミサイルを発射した。フーシ派は23日にもアブハ空港とジャザーン空港に無人機で攻撃を加え、アブハ空港でシリア人1人が死亡、市民7人が負傷した。フーシ派は、これまで地対地ミサイル、無人機を使ってサウジアラビア南部を中心に攻撃してきたが、巡航ミサイルという新たな武器を入手して、サウジアラビアの各地域(特に民生施設)へ攻撃を展開するようになっている。

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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