ビジネスジャーナル > 企業ニュース > セブンコーヒー、スタバの脅威ならず
NEW

結局セブンの百円コーヒーがスタバにとって「脅威にならなかった」理由…店舗ごとに個性

文=小川裕夫/フリーランスライター
結局セブンの百円コーヒーがスタバにとって「脅威にならなかった」理由…店舗ごとに個性の画像1
セブンカフェ(「Wikipedia」より/Benzoyl)

 消費税が10パーセントになり、外食業界は苦境に立たされている。特に、個人事業主が経営する食堂や喫茶店は厳しい状態だが、これに後継者不足という事業承継の問題も加わる。景気の先行き悪化、後継問題というダブルパンチもあって、金融機関は個人事業主へ運転資金の融資を渋る。それが、ますます個人経営の外食店に陰を落とす。

 一方、大手資本の外食チェーンは規模を強みにして大量出店し、勢力を拡大してきた。しかし、近年は成長が鈍化。消費増税の影響は大資本のチェーン店にも及び、新型コロナウイルス感染拡大による売上減も加わっている。

 外食業界は常に新たな一手を模索しているが、チェーン店が新たな活路として、個性を反映させたスピンオフ店舗に光明を見いだそうとしている。外食チェーンの武器は、どこの店舗でも同じ味のメニューを出し、接客レベルも一定水準を満たし、店舗の外観も内装も統一している点にある。これらにより経営を合理化してきた。個人経営の飲食店に比べて、チェーン店は利益率を高くできる。

 しかし、そうしたチェーン店のメリットは時にデメリットにもなる。すべての店舗が画一的であるがゆえに、客から飽きられやすい。それを防ぐために、チェーン店は季節ごとにメニューを替えるなどの工夫を凝らしてきた。しかし、少子高齢化やUberEatsなどによる中食の普及、消費増税という逆風は、そうしたチェーン店の努力を無にし、客足は遠のいている。チェーン店は飽きられているわけではないが、このままの状態が続けばジリ貧は必至。

 そうした逆風下にあっても、スターバックス コーヒーは比較的好調を維持してきた。スターバックスにも危機がなかったわけではない。例えば、セブンイレブンが始めた本格的なコーヒーは、手軽な値段で楽しめることもあって一気に市民権を得た。ファミリーマートやローソンなどの同業他社も次々に100円コーヒーに参入し、コーヒーを柱とするスターバックスは売上を食われることになりかねない。しかし、実際はそうはならなかった。ある飲食業界関係者は言う。

「スターバックスはコーヒーチェーンですが、提供しているのは単にドリンクとしてのコーヒーではありません。快適な空間、ゆっくりとした時間を過ごすことの付加価値も提供しているのです。そのために店舗の内装・外観・レイアウト・立地にいたるまで考え抜かれています。そうした店づくりへのこだわりが支持されて、スターバックスで過ごすリッチなひとときに客は金を払ってしまうのです」

地域ごとに店舗に個性

 スターバックスでの優雅なひとときは、平たく言うなら場所代ということになるだろう。一流ホテルのラウンジで飲むコーヒーは、チェーン店とは比べものにならないほど高いが、それに対して文句を言う客はいない。スターバックスもそれと同様に、客が上質な時間を過ごせるように考え抜かれている。

 スターバックスは地域性や客層などを考慮して、外観や内装などを店舗ごとに変えている。京都だったら町家風、蔵の街で知られる埼玉県川越の店は蔵造りの街並みと調和した外観・内装にしている。こうした店づくりは、いまや広く認知されつつある。

 スターバックスの個性を打ち出した店づくりが脚光を浴びたきっかけは、「世界一美しいスターバックス」として有名になった富山県富山市の富山環水公園店だった。同店は2008年にストアデザインアワードの最優秀賞を受賞。これを機にスターバックスの美しい店舗が業界でも注目されるようになる。以降、10年には福岡県福岡市の福岡大濠公園店、2011年には福岡県太宰府市の太宰府天満宮表参道店などが受賞していった。

スタバに追随の動き

「こうしたスターバックスの攻勢を横目に、他社もチェーン店らしくない店づくりを始めて追随するようになっています。最近はコンビニの弁当・ドリンク類もかなりクオリティが高く、それゆえに外食産業として対抗するには味だけでは難しくなっています。客をつなぎとめるためにも、画一的ではない、個性のある店づくりが課題になっているのです」(前出・飲食業界関係者)

 ガストで知られるファミレスチェーン最大手のすかいらーくグループのジョナサンは、静岡県熱海市に全面ガラス張りの店舗を設け、オーシャンビューを眺めながら食事を楽しむことができる。まるでリゾートホテルと見紛うような絶景をファミレス価格で堪能できてしまうお得感も手伝って人気店になっている。こうした店づくりに力を入れて脱チェーン化する動きが活発化するなか、さらに一歩踏み込んで本来の店舗からスピンオフするような店も出てきた。

 すかいらーくは横浜市内でハワイアンをイメージした店舗「ラ・オハナ」を2店だけオープンさせている。ラ・オハナには、すかいらーくがこれまでとってきた割安感はない。それでも全国でも2店舗だけしかないという希少性、味や雰囲気のよさも手伝って、週末は多くの客が押し寄せる。

 牛タン・とろろ・麦めしのメニューでチェーン展開してきたねぎしは、東京・有楽町駅の近くに豚肉料理をメインメニューにした「ねぎポ」をオープン。これまでの店とは異なり、メニューは豚肉料理がメイン。それでも、料理の見栄えなどにこだわり、内装もおしゃれにしていることから、女性客を中心に好評を博し、ねぎポは19年12月には御茶ノ水駅の近くに2店舗目を開店させた。

 外食業界は脱画一化で消費増税や新型コロナウイルス禍という逆境を跳ね返せるか。

小川裕夫/フリーライター

小川裕夫/フリーライター

行政誌編集者を経てフリーランスに。都市計画や鉄道などを専門分野として取材執筆。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『私鉄特急の謎』(イースト新書Q)、『封印された東京の謎』(彩図社)、『東京王』(ぶんか社)など。

Twitter:@ogawahiro

結局セブンの百円コーヒーがスタバにとって「脅威にならなかった」理由…店舗ごとに個性のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!