リクルートの1兆円上場で不安視されるイケイケ社長!?
そんななか、2013年4月に“東証デビュー”を予想されているのがリクルートだ。リクルートは今年1月、10月1日付で持ち株会社に「リクルートホールディングス」への商号変更を発表。持ち株会社の下に求人、住宅、結婚、進学情報など、部門ごとの事業会社に分社化することになった。
さらに6月の株主総会では、4月に就任した峰岸真澄新社長が上場に言及、一気に現実味を帯びた。リクルート側は具体的な上場スケジュールを明らかにしていないが、中間決算が固まる10月中に東証へ上場申請し、13年2月に承認を得て、4月に上場というのが最速シナリオだ。
リクルートの上場時の時価総額は、会社計画によると13年3月期は営業収益(売上高)1兆200億円と4期ぶりの1兆円の大台で、時価総額は控えめに見積もっても8300億円程度となる。仮に1兆円だとすれば、サービス業ではオリエンタルランドやセコムを抜いて首位に躍り出る。
現在76歳の創業者・江副浩正氏が西新橋の森ビル屋上で創業したのが60年。バブル絶頂期の88年には、当時の政権をも大きく揺るがしたリクルート事件という転機も迎えたが、新規事業を生み出す文化は変わらず、ハングリーさと明晰さを兼ね備えた人材を輩出し続けて52年がたった。
ネット化やグローバル化とリクルートをとりまく環境は劇的に変化している。新社長が目指す5~6年後の目標は「人材でグローバル・ナンバーワン、販促(広告)でアジア・ナンバーワン」と、勢いはとまらない(「峰岸真澄社長 単独インタビュー 『株式上場で世界一を目指す』」)
ただし、上場で問題になりそうなのが、社員のモティべーションの低下だ。実はリクルートの筆頭株主は、総発行株の13.8%を保有している社員持ち株会だ。時価総額が1兆円ならば1400億円が社員の資産となり、在職年数が長い社員であれば、保有株が評価額1億円を超えるケースも続出しそうだという。上場で社内に億万長者が出れば、従来のハングリーさがなくなるのではないか。株を持つ者と持たない者とで格差が生まれる懸念をOBは指摘する。
江副氏も特集インタビューに登場し、「株は若干持っている程度」と告白した上で「私がいたときも上場しようと思えばできましたが、社員持ち株会の保有比率が3割以上あったので踏み切りませんでした。同じように社員持ち株会が筆頭株主だったソニーは、上場後に株を売却して辞める社員が多かったと創業者の盛田昭夫氏から伺って、上場はできないと思いました」と語っている。
もう一つ気になるのは、新社長・長峰岸氏の経歴だ。裕福な美容院の息子として生まれた峰岸新社長は80年代、立教大学でイベントを企画するプロデュース研究会に所属し、幹事長として学園祭を復活させた。大学時代からの友人にUSENグループの宇野康秀氏がいる……と、どこかキーワード的に「渋谷で働く社長」的な浮かれた感じがいなめないのだ。
上場で得る資金で、世界に打って出ると宣言したリクルートだが、このイケイケ感はどこかバブル的だ。やはりリクルートの正体は今でもバブル的なのかもしれない。
2014年“ホテル戦争”再び
「週刊ダイヤモンド 8/25号」の特集は『日本のもう一度泊まりたい! ベストホテル』だ。ホテル業界がこの秋、期待しているのが、東京で10月12~14日に開催されるIMF(国際通貨基金)・世界銀行年次総会だ。この年次総会は「最大の国際会議」とされ、187の加盟国から財務省や中央銀行の首脳など公式参加者だけで1万人。民間企業の非公式参加者を含めて2万人が来日する見込みだという。東京国際フォーラム、帝国ホテル、ホテルオークラ東京で会議が行われ、20のホテルが政府要人の宿泊先として指定されているという。経済効果は200億円。この機会を活用して、日本のよさをアピールしようと各ホテルはさまざまな趣向をこらしているという。
今年もホテルは話題が盛りだくさんだ。5月17日には皇居を目の前にしたパレスホテル東京がリニューアルオープン。IMF・世界銀行年次総会の直前の10月3日には日本で唯一、建物そのものが重要文化財という東京ステーションホテルがリニューアルオープンする。
パレスホテル東京と東京ステーションホテルは老舗ホテルながら好対照な再開業となっているという。パレスホテル東京は「年内の結婚披露宴の予約がすでにほぼいっぱいの状態」で宴会が中心だ。一方の東京ステーションホテルは歴史や鉄道ファンという固定層の宿泊客が期待されているという。
また、90年代には憧れとされたラグジュアリー(高級)ホテルも激変している。まず、87年にセゾングループが日本初のラグジュアリーホテルとして開業したのが、ホテル西洋銀座だが、今年5月、現在の経営主体である東京テアトルの子会社がホテルの立つ敷地の売却を決断せざるをえなくなった。売却額は178億円でホテルは来年5月で閉鎖される。
そして90年代には94年開業のウェスティンホテル東京(目黒区三田)、95年のパークハイアット東京と並んで、“新御三家”とされたフォーシーズンズホテル椿山荘東京(92年開業)だが、今年をもって、カナダのフォーシーズンズホテルとのフランチャイズ契約を解消。運営する藤田観光は来年1月からはホテル椿山荘 東京としてリニューアルするという。なお、東京駅に近接する「フォーシーズンズホテル丸の内 東京」はフォーシーズンズホテルの経営で、まったく別だ。
ラグジュアリーホテルは、再び“ホテル戦争”が始まりそうだ。05年に開業したマンダリンオリエンタル東京に続いて、07年にはザ・リッツ・カールトン東京、ザ・ペニンシュラ東京が開業し、高級ホテル戦争になった。それから7年後の14年からは、再び高級ホテルの開業ラッシュとなる。
まず、虎ノ門1丁目、再開発中のいわゆるマッカーサー道路をまたぐ形で森ビルが建設中の超高層複合タワーにはハイアットホテルズが、パークハイアットとグランドハイアットの中間ブランドにあたる「アンダーズ」ブランドの高級ホテルを日本初展開する予定だ。
また、大手町の旧富士銀行本店跡地にはアジアの超高級リゾートホテルとして知られるアマンリゾートが開業する見通しだ。
さらに京都では、14年に鴨川、二条大橋たもとの一等地にザ・リッツ・カールトン京都がオープンする。客室数136室、京都市内で最大級の広さを誇るラグジュアリーホテルとなる。同じく14年には京都・東山区の病院跡地にフォーシーズンズホテル京都も登場予定だ。
16年には紀尾井町の旧赤坂プリンスホテル跡地に建設される超高層ビルにはマリオットグループが開業予定。大手町東地区では三菱地所が温泉を施設に組み込んだ高級ホテルを開業させる計画があるという。
……これだけ高級ホテルができても自分とはまったく関係がないというご同輩のためにビジネスホテルの話題も少々。現在ビジネスホテル各社は、ベッド(Bedroom)、朝食(Breakfast)、大浴場(Bathroom)、いわゆる「3B」と呼ばれる施設、サービスの向上に力を注いでいる。低価格ながら高品質の施設・サービスを提供するビジネスホテルが着実に増加しているのだ。
アパグループでは「APA頂上戦略」と称して、15年度までの5年間で50店舗を東京で出店するという、集中出店を行なっている。一方、店舗数245で高知県以外の全都道府県に展開している東横インは、シングルルームが平均12平米と狭めだが、幅140センチメートルのダブルベッドを採用しているという(なお念のため、東横インは東急インとはまったく別物だ。ここまで類似商号が拡大するケースも珍しいのではないか)。今後の注目は、JR西日本系列のヴィアインホテルだ。関西では名の通っていたホテルだが、11年11月に秋葉原、今年2月に新宿、3月に東銀座に相次いで出店し、これから全国区のブランドに成長していきそうだ。
(文=松井克明/CFP)