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残業代ゼロルール、導入目指した政府と産業界、その約10年の舞台裏 適用拡大に懸念も

文=編集部
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残業代ゼロルール、導入目指した政府と産業界、その約10年の舞台裏 適用拡大に懸念もの画像14月22日、経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議で発言する安倍首相(「首相官邸HP」より)
 政府は6月11日、労働時間に関係なく成果に基づき給与を支払う「残業代ゼロ・ルール」の対象について、「少なくとも年収1000万円以上」「職務の範囲が明確で、高い職業能力を持つ労働者」と決めた。6月末に閣議決定する成長戦略に明記するが、詳細な制度設計は持ち越され、2015年の通常国会での関連法改正案提出を目指すとしている。

 残業代ゼロ・ルールは4月22日、経済財政諮問会議と産業競争力会議の合同会議で民間議員である長谷川閑史・経済同友会代表幹事(武田薬品工業社長)から「新たな労働時間の創設」として提案された。安倍晋三首相は、即検討するように命じた経緯がある。

 労働基準法では1日8時間労働、週40時間の法定労働時間を超える残業や休日・深夜労働をした労働者には割増賃金(残業代)を支払うことが義務付けられている。長谷川氏が当初提案した内容は、(1)高収入・ハイパフォーマー型社員、(2)労働時間上限要件型社員(一般社員)について、労働時間規制の対象外とする提案だった。

 一般社員も対象だったため、連合をはじめとする労働界から「一般社員をさらなる長時間労働に追い込む」といった批判が続出。長谷川氏は5月28日の産業競争力会議で、高度の専門職と研究開発部門などで働く管理職手前の「幹部候補」に対象を狭める修正案を提示した。

 これを受けて甘利明経済再生担当相や田村憲久厚生労働相、菅義偉官房長官らが官邸で協議し、「年収1000万円以上の高い職業能力を持つ労働者」を対象に残業代ゼロ・ルールを導入することを決めた。

05年の経団連提言が発端

 残業代ゼロ・ルールは07年、第1次安倍政権で労働者の労働時間規制を外す「ホワイトカラー・エグゼンプション」制度として導入が検討されたが、今回の内容もほぼ同じだ。ホワイトカラー・エグゼンプションとは、労働基準法は一定の条件を満たした場合に労働者への残業代支払いを義務付けているが、その適用を除外する制度だ。労働時間は自己裁量となり、賃金は成果で決まる。企業に残業代などの支払いや労働時間管理の義務はなくなる。

 05年に経団連はホワイトカラー・エグゼンプションは「年収400万円以上」とするよう提言した。06年、第1次安倍政権において小泉純一郎政権で労働市場の規制緩和を主導した竹中平蔵氏(慶應義塾大学教授)が、再び規制緩和策を提言。竹中氏の提言を元に安倍内閣は労働ビッグバンを提唱し、「年収900万円以上」を対象に導入を目指したが、世論の反発が大きく、07年7月の参議院議員選挙への影響を懸念して国会での法案可決を断念した。

 その後、竹中氏は、小泉政権の労働規制緩和で恩恵を受けた人材派遣会社、パソナグループの取締役会長に就任したが、第2次安倍政権で産業競争力会議の民間議員に選ばれ、雇用・人材分科会のメンバーとして労働時間と報酬の連動をやめる「新たな労働時間制度」創設の提言を担当した。残業代ゼロ・ルールは小泉政権時代から竹中氏が主張していたものである。

主導した経産省

「週刊東洋経済」(東洋経済新新報社/5月24日号)は、西村康稔・内閣府副大臣の部屋で行われた非公式な会合で示された長谷川氏の原案について次のように報じている。

「この場で関係者に示された長谷川ペーパーの『原案」には、あいまいさのかけらもなかった。現在の労働時間制度は工場労働者を想定した仕組みであり、ホワイトカラーには適さない、それに代わる新たな労働時間制度として『スマートワーク』なるものを創設するというものだ。

 このスマートワークでは、対象者の範囲に業務や地位の限定を設けず、本人の同意と労使の合意に委ねることで、幅広い労働者の利用を可能にするとしている。実際そこで図示された対象者のゾーンには、『ヒラ社員』の最末端、つまり新入社員まで含まれている。本人の同意と労使合意さえあれば、どんな業務内容の新入社員でも労働時間規制が及ばず、残業代なし、深夜・休日割増なしで働かせることができる」

 このスマートワーク構想の発案者が菅原郁郎・経済産業省経済産業政策局長だという。菅原氏は安倍政権の掲げる成長戦略の策定を主導し、消費増税論議では、経産省内ですら「減税については財務省の抵抗が激しく、実現が難しい」とみられていた復興特別法人税の終了の前倒しを勝ち取った。さらに菅原氏は、法人税実効税率引き下げ実現を成長戦略の目玉にする案をひねり出し、今回、残業代ゼロ・ルールの実現を推進する。

 国税庁の民間給与実態統計調査(12年)によると、残業代ゼロ・ルールの対象者となる年収1000万円以上の給与所得者は、172万人で全体の3.8%(管理職も含む)。800万円以上を含めれば8%になり、この層にもルール適用が拡大される可能性が高いといわれている。経団連会長の榊原定征・東レ会長は、「少なくとも全労働者の10%は適用を受けるように対象職種を広げた制度にしてほしい」と注文をつけたが、同ルールの適用対象者が広がると、労働者間の所得格差拡大につながると懸念する声もある。
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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