「プリン体は体に悪い」「ビールはプリン体が多いので飲まない」といった声を時々耳にします。一般にプリン体は痛風の原因といわれています。そのため、プリン体ゼロをうたった発泡酒が次々に売りだされ、テレビでも盛んに宣伝されています。さらに、「プリン体と戦う乳酸菌」と銘打ったヨーグルトも発売されています。そんなこともあって、「プリン体は体に悪い」と思っている人が多いようです。
しかし、それはまったくの誤解なのです。なぜなら、プリン体は私たちの体の全細胞にとって不可欠な物質であり、もしプリン体が存在しなかったら、地球上の生命は存在しないほど重要な物質なのです。そんなプリン体が、なぜ悪者にされてしまったのか。そのカラクリを見ていきましょう。
そもそもプリン体とは、どのようなものでしょうか。
それは、「プリン骨格」という独特の化学構造を持つ物質の総称なのです。そしてプリン体は、細胞の遺伝子(DNA)を構成する物質です。遺伝子は、リン酸と糖から成る鎖状の物質に4つの塩基、すなわちアデニン、チミン、グアニン、シトシンが結合してできていますが、アデニンとグアニンの主成分がプリン体なのです。
遺伝子は、細胞の設計図といわれています。すなわち、遺伝子に記録された情報に基づいてたんぱく質などがつくられ、それらによって細胞が構成されます。したがって、もしプリン体が存在しなかったら、2つの塩基はつくられず、遺伝子も細胞も構成されず、生命は存在しないことになるのです。
プリン体が悪者扱いされる理由
そんな重要なプリン体が、どうして悪者にされてしまったのでしょうか。プリン体は、食べ物とともに体内に取り込まれるほか、アミノ酸の一種であるグルタミンやグリシンなどから体内で合成されます。また、新陳代謝によって古いアデニンやグリシンが分解されることでも生成されます。それらのプリン体は、肝臓で代謝されて尿酸となり体外に排出されます。ちなみに、体内にあるプリン体の7割は、体内で生成されています。
一連の代謝がスムーズに行われ、プリン体が尿酸に変化して排泄されていれば問題ないのですが、プリン体が多くなると尿酸も増えます。尿酸が多くなり過ぎると、血液中に尿酸がたまって高尿酸血症を起こします。さらに、この状態が続くと、尿酸が結晶化した尿酸塩が関節に沈着していき、急性関節炎を発症します。これがいわゆる痛風で、激烈な痛みを伴います。
このような状況から、プリン体が痛風の原因といわれ悪者となってしまったのです。しかし、前述のようにプリン体は遺伝子を構成する物質であり、体にとって不可欠なものです。問題はプリン体が過剰になって、尿酸が増えてしまうことなのです。
筆者の知人で40代後半の男性が、痛風にかかりました。独身ということもあってか、頻繁にカップラーメンやレバーを食し、毎日ビールを飲んでいたといいます。そんな生活を続けていたところ足の関節に激痛を感じるようになり、病院で検査を受け痛風と診断されたといいます。
痛風は、プリン体を多く含む食品を食べ、さらにアルコールを摂取し続けることによって起こります。アルコールは体内の尿酸をできやすくし、尿酸値を高めてしまうからです。鶏や豚などのレバーは、プリン体を最も多く含む食品です。その知人は、そのような食事を繰り返し、さらにビールを毎日飲んでいたために体内の尿酸が増えて、ついには痛風になったと考えられます。
プリン体を発泡酒販売に利用したビール会社
ところで古くから、体内の尿酸が増えると痛風になることはわかっていました。また、尿酸はプリン体が変化してできることも明らかになっています。そのため、プリン体→尿酸→痛風という単純な図式が出来上がり、プリン体が痛風の原因と考えられるようになったのです。これを商品の販売戦略にうまく利用したのがビールメーカーといえるでしょう。