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筈井利人「一刀両断エコノミクス」

「戦争は経済を活性化させる」は、デタラメである なぜ戦争が終わると不況になる?

文=筈井利人/経済ジャーナリスト
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「戦争は経済を活性化させる」は、デタラメである なぜ戦争が終わると不況になる?の画像1内閣官房「『平和安全法制』の概要」より

 今月16日、安全保障関連法案が衆議院で可決された。これは、自衛隊法などの改正を一括して行う「平和安全法制整備法案」と、自衛隊による米軍などの後方支援を可能とする「国際平和支援法案」の2本立てである。法案成立をめぐっては、国会周辺で人々が「戦争反対」のプラカードを掲げて演説を行ったり、一部のメディアや識者から「日本が戦争をしやすくなる環境が整いつつある」といった指摘もなされるなど、国民的な議論が起こっている。

 このように「戦争」という言葉がにわかにクローズアップされつつある中で、「戦争は経済に利益をもたらす」という主張をよく耳にする。戦時には武器や弾薬、兵士の食糧などが大量に必要になり、それらを扱う企業が儲かる。さまざまな技術が戦争をきっかけに開発される。戦争が終わると、戦時中に破壊された多くの住宅やビルが建て直され、経済活動を刺激する――。だから戦争は悲惨であっても、国を経済的に豊かにする、というのである。

 しかし、これは本当だろうか。

 米国の経済ジャーナリスト、ヘンリー・ハズリットは、第二次世界大戦終結直後の1946年に出版して以来ロングセラーとなっている著書『世界一シンプルな経済学』(村井章子訳/日経BP社)で、戦争が経済にプラスに働くというこの説を取り上げ、それが間違っていることを明らかにしている。

 ハズリットはまず、「割れた窓ガラス」という寓話を紹介する。悪童がパン屋の窓ガラスを割る。それを見た近所の人が「窓を割られたのは不運だったが、悪いことばかりでもない」と言い合う。「例えば、そら、ガラス屋が仕事にありつくじゃあないか」。代金を得たガラス屋は、その分かそれ以上を別の店で使うだろう。その店の主人はまたその分を……という具合で、割れた窓ガラスは、次第に大きな範囲で収益と雇用を生むことになる。すると、この寓話の結論はこうなる。「ガラスを割った悪童は、町に損害を与えるどころか、利益をもたらしたのだ」

 さて、この結論は正しいだろうか。ハズリットは次のように異を唱える。たしかに悪童のいたずらは、とりあえずガラス屋の仕事を増やす。だが実はパン屋の主人は、窓ガラスの修理代金で礼服を買うつもりだった。それが250ドルだとすると、パン屋の主人は、以前は窓ガラスと250ドルの両方を持っていたのに、今では窓ガラスしかない。窓ガラスと礼服の両方を手にする代わりに、窓ガラスのみで満足し、礼服は諦めざるを得なくなったのである。

「パン屋の主人を地域共同体の一員と考えれば、この共同体は仕立てられるはずだった礼服を失い、貧しくなったことになる」

 つまり窓ガラスを割ったことで共同体が豊かになるという考えは間違いなのだ。しかし世間の人々の多くは、寓話に登場した近所の人のように、破壊が社会を豊かにするという錯覚に陥りがちである。

 なぜか。

 それは「人は、直接目に映るものしか見ない」からだとハズリットは指摘する。「人々は、翌日か翌々日にもパン屋に真新しい窓ガラスが輝くのを見るだろう。だが注文されずに終わった礼服を見ることはない」。だから目の前の新しい窓ガラスだけに気を取られて、手に入るはずだった礼服を失ったことに気づかない。パン屋の主人は、やむを得ず窓ガラスを修理するという選択をしたために、礼服で得られる満足を失った。

機会費用

 このように、ある行動を選択することによって犠牲にする価値を、経済学では「機会費用」と呼ぶ。目に見えない費用ともいわれる。目に見えるものからだけでは、本当の損得はわからない。

 機会費用の考えを頭に入れれば、戦争が経済を繁栄させるという主張が誤りであることはもうわかるだろう。戦争で破壊された住宅やビルが次々に建て直されていく様子は、目に見える。いかにも経済が活力にあふれているように見える。しかし、もし戦争がなかったら、住宅やビルは破壊されなかったし、再建に充てられたお金は人々を満足させる他の目的に使われ、社会をもっと豊かにしていたはずだ。

 戦争中には軍需産業が儲かり、経済成長を押し上げるかもしれない。しかし、武器や弾薬は戦争には必要であっても、国民の生活を便利にするものではない。だから戦争が終わると軍事物資への特需は消え失せ、経済は不況に陥る。もし戦争がなければ、企業は消費者が本当に欲しがる商品やサービスに力を入れ、経済成長はもっと地に足の着いた、息の長いものになるだろう。

ネットは、もっと便利になっていたはずである

 もともと軍事上の必要から開発された技術は少なくない。

 例えばインターネットは冷戦中、米国がソ連からの核ミサイル攻撃を想定し、非常事態でも指揮系統を失わない分散処理システムとして開発された「ARPANET(アーパネット)」が原型とされる。

 私たちはネットのすばらしさに目を奪われがちだが、ここでも目に見えない費用を忘れてはならない。政府が商業利用を考えず開発した技術なので、使い勝手が必ずしもよくない。個々のパケットに異なる値付けをする仕組みがないため、回線容量を上回る利用が殺到し、しばしば通信が滞る。公営の道路と同じだ。もしネットが最初から民間企業によって民生用に開発されていたら、もっと使いやすいネットワークになっていただろう。

 戦争は個人にとって痛ましい出来事であるのと同じく、個人の集団である国にとっても、痛ましい出来事なのだ。戦争が国を豊かにするなどというウソに騙されてはいけない。
(文=筈井利人/経済ジャーナリスト)

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