フランス人経済学者トマ・ピケティの著書『21世紀の資本』(みすず書房)が大きな話題となった。経済学書であり、6000円近い価格にもかかわらず、ベストセラーとなった。人々がこの著書に引き付けられたのは、“格差”がどのように発生し、拡大するのかというテーマにあったのだろう。ピケティの登場は、明らかに日本に何かを投げかけた。それはアベノミクスという経済政策が進められていく中で、国民の多くが感じている格差ではないのか。
デフレ経済脱却を目指して進められている安倍晋三政権によるアベノミクスは、日本銀行による異次元緩和を通じて円安の恩恵をもたらし、日経平均株価の上昇を演出した。消費者のセンチメント(市場心理)は、「景気が回復するかもしれない」という期待感に膨らんだ。
しかし、その一方で生活保護受給者は過去最多を更新し続け、非正規雇用はアベノミクス開始前よりも増加、また、年収が200万円に満たない、いわゆる「ワーキング・プア」も増加している。こうした、アベノミクスの恩恵を受けている者と受けていない者との間の格差に思い至るきっかけとなったのが、ピケティではなかったのか。
「経済成長が格差を是正する」という考え方がある。アベノミクスは明らかにこの立場を採っている。その考え方の最たるものが、「トリクルダウン理論」だ。
トリクルダウンは「滴り落ちる」という意味で、高所得者や大企業に恩恵をもたらすような経済政策を優先的に行えば、その恩恵は経済全体の拡大というかたちで低所得者層にまで雫が滴るように行き渡るとする理論だ。
実際に、安倍首相のブレーンである浜田宏一内閣官房参与は、アベノミクスが進める金融緩和が実体経済に影響を及ぼすプロセスについて、「アベノミクスはどちらかというとトリクルダウン政策といえる」と言明しており、甘利明経済再生相も、「トリクルダウンということはあり得ると思う」と述べている。
トリクルダウンで格差は拡大&固定化?
そもそも、トリクルダウン理論を最初に用いたのは、1980年代に米レーガン政権で初代行政管理予算局長官となったデビッド・ストックマンだが、トリクルダウンの効果そのものは、いまだに経済学的には検証されておらず、米コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授、米プリンストン大学のポール・クルーグマン教授というノーベル経済学賞を受賞した2人は否定的な見解を示している。