2013年ごろ、郵政民営化の弊害として社会からバッシングを受けた自爆営業だが、現状はどうなったのだろうか? 郵便局関係者のAさんは語る。
「何も変わっていませんね。年々、年賀はがきの販売数は落ちているのに、販売ノルマは去年とまったく変わりません」
メールやLINEが普及したこともあり、最近では若者だけでなく中高年の人々もあまり年賀はがきを買わなくなったそうだ。また、近年、不要なモノなどの数を減らし快適な生活を手に入れようとする「断捨離」といった考え方がブームになっているように、人々がわずらわしい人間関係を整理するようになったことも、年賀はがきの売り上げ不振を後押ししているのかもしれない。
「年賀はがきの販売枚数は限られているのに、郵便局員同士でそれを取り合っているなんて、正直馬鹿馬鹿しいと思います」(Aさん)
郵便局の窓口で働いているというBさんは言う。
「内勤の社員は、年賀はがきを売るチャンスも限られてきます。手当たり次第に声をかけて、やっとたくさん買ってくれる人を見つけたと思ったら、ほかの社員のお得意様だったりする。その場合、大人しく身を引かなきゃいけない、なんてルールもあるくらいです。みんな、必死なんです」
販売ノルマも郵便局によってさまざまだ。
「2000枚でいい局もあれば、1万枚売らないといけない局もあります。年賀はがきの販売が始まったからといって、ほかの目標が下がるわけではありません。むしろ、上の人たちは『年賀はがきなんて売れて当たり前』という感覚を持っています。だから、年賀はがきも売れない社員には、なおさら風当たりが強くなります」(Bさん)
では、年賀はがきを売れない社員はどうなるのだろうか。
「まず、年賀はがきの出張販売に行かされますね。大抵は路上販売など、屋外の寒いなかでの販売です。複数人で行かされることがほとんどですが、ひとりで防寒着も渡されずに行かされた、なんて話も聞いたことがあります。局長からは『何枚売れた?』『どうして売れないんだ?』『売れるように今ここで練習しろ』と何時間もロール・プレイングをさせられたりもします。もちろん勤務時間外です。そこまでするくらいだったら、いっそ自分で買い取ったほうがましだと思う感覚はよくわかりますね」(同)
年賀はがきの自爆営業ばかりが取り上げられているが、「問題はもっと深いところにある」と郵便局関係者のCさんは語る。
「郵便事業は郵政グループのなかでもお荷物という感覚があります。郵便の赤字を、かんぽ生命とゆうちょ銀行の売り上げで補ってなんとかやっていけているからです。けれども、郵便局という組織はもともと国営だったせいか、社員のクビを切るということをしません。どんなにできない社員だろうとそれは変わりません。だから少しでも目標を下げるために、相手が自ら『辞めたい』と言うまで徹底的にいじめ抜きます。なかにはそうした嫌がらせに辛抱強く耐える社員もいますが、大方すぐ心が折れますね。うつ病で休職している社員に、『いつ辞めるの?』なんて電話しているのも聞いたことがあります。外からは、民営化で風通しが良くなったように見えるかもしれませんが、中身は依然、コンプライアンスなんて無縁で前時代的なままですよ」
11月4日に日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の郵政グループ3社が一部上場を果たしたが、グループのなかでは唯一、日本郵便だけは上場しなかった。その背景には、郵便という事業が公益性が高く、恒常的な赤字を抱えているという事情がある。だが今回の話を聞く限り、年賀はがきの販売ノルマよりも先に改善するべき課題があることは間違いないだろう。
(文=編集部)