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永井孝尚「企業の現場で使えるビジネス戦略講座」

出がらしまで提供…コーヒー市場、なぜ不味くなりすぎて規模半減? 不毛な価格競争の末路

文=永井孝尚/ウォンツアンドバリュー株式会社代表
出がらしまで提供…コーヒー市場、なぜ不味くなりすぎて規模半減? 不毛な価格競争の末路の画像1「Thinkstock」より

「では、不毛でない値下げ合戦なら、いいのでしょうか?」

 先日、筆者はある方からこのようなご質問を頂いた。利益を削って価格を下げて戦う「不毛な値下げ合戦」は避けるべきだ、という話をした後だった。

 この質問には、価格戦略を考える上で重要なヒントが隠されている。そこで、まず「不毛な値下げ合戦」について考えてみたい。

出がらしまで提供…コーヒー市場、なぜ不味くなりすぎて規模半減? 不毛な価格競争の末路の画像2『戦略は「1杯のコーヒー」から学べ!』(永井孝尚/KADOKAWA/中経出版)

 価格競争で業界全体が利益を削り疲弊している状況が続くと、いずれ品質にも手を付けざるを得ない。たとえば1960年代に始まった米国コーヒー業界は、まさにそういう状況に陥っていた。その結果、コーヒーの出がらしを商品として提供するなど品質を下げて、顧客離れを引き起こした。当時米国人1人当たり1日3.12杯のコーヒーを飲んでいたが、40年後には1.5杯と半分以下になった。「米国のコーヒーは不味い」という評判が定着し、市場は半分以下になってしまったのだ。

 値下げ競争は企業の「体力勝負」だ。スポーツの「体力勝負」は、体力の限界まで追い込むことで体力の限界値が徐々に上がる。しかし、利益や品質を削った値下げ競争の体力勝負においては、安くても低品質な商品を提供される顧客は徐々に離れ、企業の体力は徐々に失われていく。その先にあるのは企業の淘汰だ。行き着く果ては、まさに米国コーヒー市場が半減したように市場の大絶滅。だから「不毛な値下げ競争」なのだ。

 幸い、米国コーヒー業界では「美味しいコーヒーを提供しよう」と考える人が現れて、スターバックスコーヒーなどのようにスペシャリティコーヒーを提供する会社が生まれ、価格競争から価値競争に転じた。

不毛でない値下げ競争

 では、冒頭の質問のように「不毛でない値下げ競争」とはどのようなものか。

 値下げのなかには、利益を削らない値下げもある。最新技術の活用により、より低いコストで提供できるような新しいコスト構造を実現し、利益と品質を確保した上で価格を下げる方法だ。

 たとえば、かつての生命保険業界では主に営業職員が商品を販売していた。人手や営業拠点などの販売コストはすべて保険料金に転嫁されるので、保険料金は割高になっていた。この伝統的なコスト構造を大きく変えたのが、2008年に開業したライフネット生命保険だ。生命保険をネット経由のみで販売することで、販売コストを削減して保険料金を大きく下げた。これは、最新技術を活用してコスト構造を変え低価格を実現した例だ。

永井孝尚/ウォンツアンドバリュー株式会社代表

永井孝尚/ウォンツアンドバリュー株式会社代表

 マーケティング戦略アドバイザー。1984年に慶應義塾大学工学部を卒業後、日本IBMに入社。マーケティングマネージャーとして事業戦略策定と実施を担当、さらに人材育成責任者として人材育成戦略策定と実施を担当し、同社ソフトウェア事業の成長を支える。2013年に日本IBMを退社して独立。マーケティング思考を日本に根付かせることを目的に、ウォンツアンドバリュー株式会社を設立して代表取締役に就任。専門用語を使わずにわかりやすい言葉でマーケティングの本質を伝えることをモットーとし、幅広い企業や団体へ年間数十件の講演やワークショップ研修を実施。さらに書籍・雑誌の執筆、メディア出演などで、より多くの人たちにマーケティングの面白さを伝え続けている。主な著書に、シリーズ累計60万部を突破した『100円のコーラを1000円で売る方法』シリーズ(全3巻、コミック版全3巻、図解版、文庫版)、『そうだ、星を売ろう』、『戦略は「1杯のコーヒー」から学べ!』、『残業3時間を朝30分で片づける仕事術』(以上KADOKAWA)、『「戦略力」が身につく方法』(PHPビジネス新書)がある。最新著は『これ、いったいどうやったら売れるんですか? 身近な疑問からはじめるマーケティング』(SB新書)

・問い合わせ先:永井孝尚オフィシャルサイト

Twitter:@takahisanagai

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