「ゆめぴりか」「ななつぼし」「青天の霹靂」「つや姫」「はえぬき」――。
これらは今、美味しいコメと評判の品種名である。「ゆめぴりか」「ななつぼし」は北海道産、「青天の霹靂」は青森産、「つや姫」「はえぬき」は山形産だ。これまで、北海道のコメは「やっかいどう米」ともいわれていたが、「ゆめぴりか」や「ななつぼし」は今や全国ナンバー1の食味ともいわれ、CMも流され評判となっている。
このようなコメの開発を担ってきたのが、各都道府県の農業試験場であった。食味の良い評判のいい米づくりは、県内のコメ生産にとって命綱であるだけに、農業試験場は総力を上げて優良な米の種子開発に取り組んでいる。
そして米の種子開発を支えてきたのが、主要農作物種子法(以下、種子法)であった。同法に基づいて各都道府県は、県内に普及すべき優良品種を指定し、また種子生産の圃場の指定や種子の審査を行ってきた。また、それに必要な予算も国から地方交付税で支給されていた。
しかし、安倍政権は国会に種子法廃止法案を提出し、同法廃止の暴挙に出たのである。消費者・自治体・研究者・農業者の誰も望んでいないにもかかわらず、なぜ廃止しようとしているのか。
農林水産省が提出した種子法廃止法案の趣旨をみてみると、次のように書いてある。
「良質かつ低廉な農業資材の供給を進めていく観点から、種子について、地方公共団体中心のシステムで、民間の品種開発意欲を阻害している主要農作物種子法を廃止する」
要するに、都道府県が農業試験場を中心に種子開発に取り組んでいることが、企業の種子開発意欲を阻害しているから、都道府県の種子開発を支えてきた種子法を廃止するというものである。
日本の食料安全保障を危機に
では、種子法が廃止されると、どのような事態になるのであろうか。都道府県の農業試験場を中心とする種子開発体制は、予算的にもシステム的にも打撃を受けることになる。新規種子の開発は、予算的にもシステム的にも維持できなくなる可能性がある。ひとつの種子開発には6~8年かかるからだ。
他方、民間企業の種子開発には公的資金が入っていないので、当然ながら企業が負担する人件費を含む開発コストは高くなり、種子の値段も高くなる可能性がある。
また、米モンサントをはじめとする種子開発多国籍企業は、日本の種子市場を狙っている。現在日本では認められていない遺伝子組み換え米の種子開発が進められ、除草剤耐性の強い稲がモンサントの除草剤とセットで売られる事態も想定される。
「種子を制するものは農業を制する」とまでいわれるが、海外企業の種子のシェアが高くなると、もしそうした企業からの供給がストップした場合に日本の米生産が成り立たなくなり、食料安全保障の面でも問題がある。
種子法の廃止は、国家主権の放棄ともいえる暴挙なのである。
(文=小倉正行/フリーライター)