
男女間の経済的な格差はしばしば問題視される。賃金の格差、企業内における地位の格差などだ。厚生労働省の調査(2016年)によると、フルタイムで働く女性の平均賃金は男性の賃金の73%。縮小傾向にはあるものの、欧州各国などと比べると格差はなお大きいとされる。
左翼知識人や過激なフェミニストは、男女間の経済格差は、家庭や学校での性差別的な教育や、資本主義の仕組みに原因があると批判する。フランスの作家、ボーボワールの「人は女に生まれるのではない。女になるのだ」という言葉は、そうした見方をよく表す。
けれどもこうしたイデオロギー的な見方に対しては、近年活発な脳科学や進化心理学の研究に基づき、異論が唱えられている。男性と女性の脳組織には顕著な違いがあり、興味や関心、知能や感情などさまざまな面に影響を及ぼすのだ。
こうした科学的事実の指摘は、今なお一種のタブーだ。ベストセラーになった橘玲氏の著書『言ってはいけない』(新潮新書)によれば、米ニューヨーク・タイムズの女性記者は、社会的成功を手にした高学歴の女性たちが自らの意思で続々と家庭に戻っていく現象について「男と女は生まれながらにしてちがっている」と記事で述べ、女性差別を正当化するものとして反響を巻き起こした。
欧米でも大学やメディアは左翼の支配力が今でも強く、その価値観に反する発言はしにくいのが実情だ。ところが最近、公の場で男女格差をはじめとするタブーに正面から挑戦し、脚光を浴びる知識人がいる。カナダの心理学者、ジョーダン・ピーターソン氏だ。
支持を広めるピーターソン氏
ピーターソン氏は55歳。米ハーバード大学を経て、現在は母国のトロント大学で教授を務める。カウンセリングを行う臨床心理士としても長年の経験がある。
しばらく前まで無名だったピーターソン氏が注目を集めたのは、2016年9月、ユーチューブに動画を投稿し、トランスジェンダー(出生時の性と自身の認識する性が一致しない人)をヘイトスピーチ(憎悪表現)や差別から守るというカナダの新しい法律に反対を表明してからだ。
ピーターソン氏は新法について、実際には言論統制に利用される恐れがあると指摘。それだけでなく、トランスジェンダーに対し「he(彼)」や「she(彼女)」ではなく「ze」「zir」といった男女の区別がない代名詞を使うよう強制されかねない。これは言論の自由の不当な侵害であり、政府が命じようとも自分はこれらの代名詞を使わないと述べた。